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投票者数が初の1億人超えとなった注目のアメリカ中間選挙、そしてニューヨークの人々の声

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
史上最年少のNY州女性下院議員、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス氏(29)(写真:ロイター/アフロ)

アメリカの中間選挙はこれまで注目度が低く、2010年の中間選挙は有権者の41%、そして2014年は36.3%の人々が票を投じただけに終わり、その数は1942年以来最低値を記録していた。

しかし見所が多く注目を集めた2018年の中間選挙の投票率は、過去50年間でもっとも高い、有権者の47.3%にあたる約1億1,150万人が投票したと発表された(1億人超えは初)。

アメリカの選挙:

もともと投票率は先進国の中でもかなり低い

ベルギー、スウェーデン、デンマーク、オーストラリアなどが投票率の高い国々として上位だが、それらの国に比べてアメリカは、32ヵ国中26位。

ニューヨークタイムズによる参考ビデオ(11月5日配信)

投票率が低い理由として、3つの理由が挙げられている。

  1. 政治腐敗への諦め。「投票しても世の中は変わらない」と思っている有権者(特に若者)がいる。
  2. 簡単に投票できるシステムになっていない。国民が18歳になったら自動的に投票できるわけではなく、投票するためにやや面倒な事前登録が必要(投票率の高いベルギー、スウェーデン、オーストラリアなどは、自動登録システムとなっている)。
  3. 投票者ID証明や早期投票など、投票に関する情報が州によって異なり、特に州をまたいだ引っ越しが多い人や若者は混乱しがち(大統領選は選挙運動期間が長く、その間に失言やスキャンダルなど情報が錯綜するため、選挙への関心を失ったり、投票したい候補者がいなくなったりして、選挙登録をしない有権者も出てくる)。

ニューヨーク、選挙日の様子

ニューヨークは投票所がよく混み、また中間選挙日の11月6日は朝から土砂降りとなったことで、さらに投票に出かける人が減るのではと心配する声が多かった。

選挙権のない私はこの日、丸1日通訳の仕事で腕時計の製造会社を訪問し、その後は同社のホリデー・カクテルパーティーにも参加した。現地の人々20名以上と接する機会があったが、投票したことを知らせる「I VOTEDスティッカー」(シール)を胸元に張っているのを1人見かけただけで、ほかは誰1人として中間選挙のことを話題に出す人はいなかった。

夜のカクテルパーティー会場から、エンパイアステートビルが星条旗カラーになっているのを見て、この日が選挙日だったことを思い出した。

星条旗カラーになった、エンパイアステートビル。
星条旗カラーになった、エンパイアステートビル。

一方でメディアやSNSなどでは混み合う投票所の様子もうかがえ、中間選挙にかける人々の熱気も伝わってきた。

ニューヨーカーは、この中間選挙をどのように受け止めたのだろうか。投票した人にこの日を振り返ってもらった。

中間選挙終了後の人々の声(1)

ロクサン・ラバーゴさん(20代女性)

今回は私が有権者になって初めて本当の意味での選挙権を行使したような、そんな記念日になりました。

私は国外生まれアメリカ育ちで、6年前に市民権を取得したミレニアル世代です。投票したのは今回が3度目です。有権者になったにもかかわらず、以前の私はきちんとそれを行使しなければという、ある種強要されているような気持ちでした。でもさまざまな人に助けてもらって、今回は初めてそんな気持ちにはならずに投票を終えることができました。

どうしてこれまでこのような気持ちだったのかというと、一つは投票プロセスの第一歩である有権者登録がやや難関だったからだと思います。少なくとも10回は試しましたが、やってみるとユーザーフレンドリーとはかけ離れた、直感的に登録することができないようなシステムになっていることに気づきました。

「初めて投票する人にとって登録がこんな大変だなんて...」と、混乱しイライラしました。何年もの間、私は自分自身の気持ちを持ち上げて投票について学ぼう、というような積極的な気持ちにはなれませんでした。

変革のために一石を投じてやるぞという思いを持ち、自分の投票の重みを実感するまで、やや時間がかかります。だからこそ、ほかの人もその心の準備ができたら、サポート体制や教える体制が必要だと思っています。私がこのような清々しい気持ちで今回投票できたのは、助けてくれた周りの友人や、有権者登録のガイドを作ってくれた『Gothamist』『WNYC』などメディアのおかげです。とても感謝しています。

登録がよくわからなくて友人などに教えてもらった投票システムについて、わかったことをまとめ、クリアになりました。周りのおかげでやっとその難関を超えることができたので、将来私も初投票する人を助けたいと思います。

I VOTED(投票しました)スティッカー(シール)を持つロクサンさん。
I VOTED(投票しました)スティッカー(シール)を持つロクサンさん。

中間選挙終了後の人々の声(2)

シンディさん(仮名、40代)

いわゆるニューヨークの選挙日の光景というのは、長蛇の列ができているようなイメージが強いのですが、私はブルックリンの、まだジェントリフィケーションの進んでいないエリアに住んでいて、この日は大雨だったというのもあり、いつにも増して投票所はガラガラでした。

...と言っても誰もいなかったわけではなく、10人ほどいました。人々の年齢層は若年層もいるし年配の方もいるし、バラバラでした(私が投票に行ったのは朝一番ではなく午後2時ごろだったというのもあるかもしれません)。私の前に並んでいた20代後半くらいの男性は初めての投票だったようで、記入方法を係の人に聞いていました。

今回の選挙に関して、「有権者としての一石を投じる」というような1票の重みをかみしめながらの投票というより、「全国民でアメリカの現状を考えようではないか」といった強い意思が人々から感じられました。SNSなどでも「選挙に参加しよう」とか「投票に行ってきたよ」という表明をすることにより「全員で参加する」、つまり原点回帰のような意味合いが強かったように感じます。

選挙結果については、トランプ政権になって2年経ちましたが、いまだこんなに赤いのか(共和党有利)という、未来への失望を感じました。同時に「予想通り」という諦めでもありました。ただカンザス州の青への変更(民主主義化)や僅差の戦いなど、詳細を知ってからは、one state at a time(one step at a time = 何事も一歩ずつ、を文字り「ともかく一州ずつ」という意味合い)という前向きな姿勢を持とうと思いました。

ミシガン州とイリノイ州の知事の民主党への回帰や、カンザス州の史上初のネイティブ・アメリカンの女性下院の誕生、アメリカ史上初となるイスラム教徒の女性下院議員、史上最年少29歳となる女性下院議員(一番上の写真)、同性愛者を公表している男性知事の誕生などのニュースを聞き、トランプ政権の残りの2年間に何かを投じてくれるはずだという、望みが芽生えているところです。

(Text: Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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