店や小売は今後どうなっていくのか。「実店舗にこだわる」米大手衣料チェーンストアの事例(2)

ラウンジスペースを新たに設けたNYのExpress。(c)Kasumi Abe

前回からのつづき)

実店舗にこだわる企業:

デジタルネイティブ・ブランドも店を続々オープン

アメリカのアパレル業界では、デジタルネイティブ・ブランドの台頭が著しく、eコマースからスタートし、実店舗に到達しているスタートアップも多い。

最近の代表的なものは、男性アパレルのBonobosIndochinoUNTUCKit、コスメのサブスクリプションBirchbox、高級バッグのセカンドハンドRebagなど。

マンハッタンのファッション街、ソーホーにオープンしたBirchboxの実店舗。(c)Kasumi Abe
マンハッタンのファッション街、ソーホーにオープンしたBirchboxの実店舗。(c)Kasumi Abe
同じくソーホーに実店舗をオープンしたRebag。店舗を持ったのはマーケティングのためだという。(c)Kasumi Abe
同じくソーホーに実店舗をオープンしたRebag。店舗を持ったのはマーケティングのためだという。(c)Kasumi Abe

デジタルネイティブ企業の代表格Amazonも実店舗へ

Amazonも実店舗として、リアル書店Amazon Booksに引き続き、Amazon 4-starを9月末にマンハッタンにオープンしたばかり。

参考記事

『アマゾンがリアル書店をニューヨークにオープン』

Amazon Blog dayone

未来の店舗づくり

この日の「リテールフォーラム」の最後の登壇者は、米カジュアルファッション大手のExpressのCEO、David Kornberg氏。

同社は1980年の創業で、北米にあるモールを中心に約600以上の店舗を展開する一大チェーンストアだ。主に20~30代を対象にしている。

ExpressのCEO、David Kornberg氏(右)。(c)Kasumi Abe
ExpressのCEO、David Kornberg氏(右)。(c)Kasumi Abe

創業から40年近く実店舗にこだわるExpressだが、Kornberg氏は、スピーチ冒頭で危機感をあらわにした。

「近年eコマース事情が劇的に変化している。10年前どころか数年前と比較しても、オンラインショッピングは消費者にとって簡単で便利でより楽しいものになってきた」

「会社の未来を考えたとき、店舗での買い物がオンライン以上に便利で快適なものにならないと勝算はない。顧客に足を運んでもらうために、テコ入れをしていかなければならない」

カスタマー・エクスペリエンスの強化のため今年4月より、チーフ・カスタマーエクスペリエンス・オフィサーの役職を新たに設け、そのチームが主体となり、ニューヨークのマジソン街の店舗をテストラボとして改装し、新たなテクノロジーを導入したという。

この店は、訪れた顧客がインタラクティブな経験ができる、3Dウェブサイトのようなものだ

例えば、店内の中心にラウンジスペースが新たに設けられた(1番上の写真)。大きなテーブルにはコンセントもついていてラップトップで作業をしたり、互いが交流したりできる。

店内には、スマホのチャージャーステーションも新たに設置。

Expressのマジソン街店に設けられた、スマホ充電用のチャージャーステーション。(c)Kasumi Abe
Expressのマジソン街店に設けられた、スマホ充電用のチャージャーステーション。(c)Kasumi Abe

起業家向けのワークショップやイベントなどを月1で開催し、人々が購買目的でなくても気軽に足を運びやすい空間にしている。

また、液晶スクリーンをタッチしながら、商品の中から何種類ものコーディネートを画面上で確認できる「Digital Styling Screen」も導入。

液晶スクリーン「Digital Styling Screen」を使うと、試着せずともコーディネートがイメージできる。(c)Kasumi Abe
液晶スクリーン「Digital Styling Screen」を使うと、試着せずともコーディネートがイメージできる。(c)Kasumi Abe

事前にオンライン上で衣類を選ぶと、店舗に到着したころには試着室にそれらの衣類が準備されている新サービスも開始。

これらのテクノロジーやサービスは顧客の経験を楽しく、買い物を便利で楽にするためのものだ

マジソン街店では、小売店が今まさに進化していることを実感するだろうと、Kornberg氏は自信をのぞかせた。

「マジソン街店で未来の店舗を体験してみて」とKornberg氏(右)。(c)Kasumi Abe
「マジソン街店で未来の店舗を体験してみて」とKornberg氏(右)。(c)Kasumi Abe

店舗は顧客の声を直に拾える財産だ

「リテールにとって、SNSでつぶやかれていることへの理解など、顧客の声に耳を傾けることがさらに重要になってくる」と同氏。

「そうしながら我々は600店舗へと成長させた。未来の店舗をどうするのか? 顧客の声はeコマース、ネット、メディアなどを通して聞くことができる。店舗では、対面で商品やサービスについての意見を直接聞くことができる。これは何百店も実店舗を持っている我々の強みであり、この強みを今後も生かさなければならない」

同社は長きにわたってカジュアルウェアが主力商品だが、最近では顧客からの要望に答え、それぞれの体型にカスタムできるビジネススーツの販売も始めた。100~300ドルというリーズナブルな価格帯で、売り上げも好調だという。

店頭販売、今後もしていく?

同氏は、テクノロジーラボとして再始動したマジソン街店をプロトタイプと位置づけ、買い物客のリアクションを直接知ることができる貴重な場だと捉えている。

全米中に新サービスを拡大させていくか否かは、マジソン街店の成果次第になるという。

「これからもExpressは店舗販売をやめないのですか?」とのモデレーターからの問いに、「もちろん!店舗は財産ですから」と同氏は力強く答えた。

ほかにも行われた、さまざまな講演

Targetの元チーフストラテジー・イノベーションオフィサー、Casey Carl氏。(c)Kasumi Abe
Targetの元チーフストラテジー・イノベーションオフィサー、Casey Carl氏。(c)Kasumi Abe

前述のAmazon 4-starは、ここニューヨークで「ミニTargetのようだ」とも呼ばれている。

Targetとは、Walmartに次ぐ全米第2位の規模を誇る百貨店チェーン。創業は1902年と歴史が長い。

Targetの元チーフストラテジー・イノベーションオフィサーで、リテール業界に入って20年以上になるCasey Carl氏は、「新聞の日曜版が消費活動に大きく影響を与えていた昔と比べて、近年はパラダイムシフトが起こり、リテールに対しての価値観が大きく変わった」と、激変した20年を振り返る。

時代の波に乗るためには

(1)消費者を知ること。顧客の行動を観察し、意見に耳を傾けること

消費者の動向を反映するべく年齢や趣向など(2)チームは多様性のあるメンバーで構成することが、重要だと言う。

同氏はTargetで顧客データを分析し、分析結果をマーケティングに応用すべく、データ・サイエンスチームを立ち上げ、3年間で110人のチーム規模まで拡大させた。

「世界はよりパーソナライズされていく。企業は分析やデータ・サイエンス・エンジニアの才能確保に投資するべき」というメッセージが印象的だった。

Town Hall(公開討論ミーティングの場)

広告代理店は使う?使わない?

フォーラムでは、Town Hall(公開討論ミーティングの場)も設けられた。(c)Kasumi Abe
フォーラムでは、Town Hall(公開討論ミーティングの場)も設けられた。(c)Kasumi Abe

公開討論では広告代理店の必要性についても議論された。

「フォーマットに沿った通り一遍のやり方で他社と同様に扱われるから使わない」という否定派から、「デフォルトのやり方でもその道のプロにアシストしてもらう価値は十分ある」など肯定派まで、参加者同士でさまざまな意見が飛び交った。

リテールはこれからも進化していく

フォーラムはほぼ丸1日のスケジュールで行われ、リテール業界の課題や問題を解決するために、参加者からは積極的な議論が繰り広げられた。

実店舗の有無に関わらずよりパーソナライズされているものが求められており、「消費者の声に耳を傾ける」という永遠のテーマを大切に守りながら、企業が正しく数字を分析しマーケティングに生かすことの重要性を、このフォーラムを通して改めて感じた。

(All photos and text by Kasumi Abe) 無断転載禁止