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世界のトランプを前に緊張を隠せなかった若き独裁者、金正恩

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
米朝首脳会談で、トランプ大統領にエスコートしてもらっている金正恩委員長(写真:ロイター/アフロ)

アメリカの歴代大統領がこれまで誰も成し得なかった歴史的な米朝首脳会談が、シンガポールで現地時間6月12日(火)午前10時過ぎから行われた。

会談はうまくいき、午後にはトランプ大統領と金正恩委員長が合意文章に署名した。トランプ氏は「期待した以上の成果が上がった。朝鮮半島との関係はまったく違うものになるだろう」と声明を出し、米朝首脳会談が成功したことを発表した。

最後は両氏がお互いをいたわるように背中に手を当て合いながら、会場を後にする様子が印象的だった。

この会談中、トランプ氏は終始一貫していつも通り落ち着いた様子だった。一方、外交慣れしていない金氏は、会談が始まるころ、かなり緊張しているのが伝わってきた。

まず金氏は、車で会場のカペラ・ホテルに到着し、車を降りてホテル入り口に向かう際、落ち着かないのか周りをキョロキョロ確認しながら歩を進めていた。また会談前のトランプ氏との記念撮影でも、緊張のためか口呼吸になっており、口が乾いているようなそぶりを見せた。

エスコートは常にトランプ氏だった。最初の対面時に長く力強い握手を交わした後、そして会場の廊下を移動する際、トランプ氏がときに金氏の腕や背中に手を添え、「あちらへどうぞ」とジェントルに促し、金氏はトランプ氏の顔を見上げるように確認し、その通りにおとなしく従っていた。

トランプ氏も人の子だから、当然あのような場でまったく緊張しないということはないだろうが、そのような場でも平常心を保っているように見せられるのが、年の功と経験値の差と言うべきか。

また、緊張気味の金氏が緊張を和らげようとしてか笑顔をときおり見せたが、その様子を冷静に見たトランプ氏は、心理的にさらに上に立てたのかもしれない。身長もひとまわり高い西欧人で、年齢は37歳も上。外交経験もビジネス経験も豊富なトランプ氏が、一枚上手だったということだろう。

これまで流されてきた北朝鮮での映像では、傍若無人な独裁者ぶりを発揮していた金氏。自国では誰よりも前を歩き、自分の言うことはその場にいるすべての者に一言一句メモをさせる。そして気に入らない者は跡形もなく即処刑。誰かの顔色をうかがったり、作り笑顔をしているところなんて見せたことがない人物だった。

過去にスイス留学の経験があっても、中国や韓国の代表と首脳会談の「練習」を踏まえたとしても、すべての経験において未熟な30代の若きアジア人青年は、今回の首脳会談で大海を知ったことだろう。これまでいかに自分がちっぽけなお山の大将としていばりちらしてきたことを、少しは恥ずかしく思うこともあるのだろうか?

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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