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もう外見で判断しない? ミス・アメリカの水着審査廃止と現地で聞こえてきた裏事情

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ニュージャージー州での「ミス・アメリカ2018」最終選考会の様子(写真:ロイター/アフロ)

ミス・アメリカ(Miss America)が水着審査とイブニングガウン審査を今年から廃止し、「もう外見で判断しない」との方針を打ち出して話題になっている。

ミス・アメリカは、1921年に開始と長い歴史を持つ、ビューティー・パジェント(美のコンテスト、ミスコン)の一つ。スタート当時は、今のような露出度の高い姿で美を競い合っているわけではなかった。

開始当初はどの出場者も、清楚なワンピースのようなものを着用していた。しかし時代の流れとともにいつしかワンピース・スタイルの水着姿となり、次第に今のような露出度の高いビキニ審査が採用され、定着したようだ。

日本では「ミスコン自体をやめればいいのでは」というようなコメントが目立っているが、現地アメリカではどうなのか。ニューヨークの街の声を拾った。

現地では男女入り乱れて賛否両論

「美のコンテストが正しい方向へ進んでいくと思うので、支持するわ」(女性)という肯定的な見方もあれば、「寂しいねぇ。水着審査などがないとなると、エッセー審査でもするのかな?」というような惜しむ声、そして「その企画は失敗するだろう」(共に男性)という辛辣な意見もあった。

否定寄りの意見は男性のみかと思いきや、そういうことでもない。

ある女性は「おそらく#MeToo(ハッシュタグ・ミートゥー)ムーブメントが影響しているのだろうけど、Why not? (なぜ水着審査などがいけないのかわからない)」という意見だった。また別の女性は、「そもそも本来の美とは、知性や人としての魅力も備わっているもの。そのうちの一つの要素が魅力的な外見なのだから、その美を表現するのに水着やイブニングガウンを着て何が悪いのか?」とのこと。さまざまな意見が上がった。

水着審査廃止の背景

まずは今回の、水着審査などの廃止を発表したのは、ミス・アメリカ取締役会の会長で、自身も1989年のミス・アメリカに選ばれたグレッチェン・カールソン(Gretchen Carlson)氏である。カールソン氏は同コンテスト初の女性会長だ。同氏は、今後ミス・アメリカの出場者は、水着などのかわりに、自分たちで選んだものを何でも着用できる方針にすると発表している。

CNNニュースは水着廃止宣言の背景として、今年から女性が取締役会の会長になったことが関係しているのではないかと報じた。実は、前年度まで会長をしていた人物がコンテストで性や体重に関する不適切な発言をしたことで解任。そこで新たに就任したのが、このカールソン氏だった。

カールソン氏について、いくつか興味深い情報がある。

カールソン氏は2016年、元フォックスニュースのCEO、ロジャー・アイレス(Roger Ailes)氏をセクハラで訴え、トゥエンティファースト・センチュリー・フォックス社から謝罪と、2000万ドル(約22億円)の和解金を得ている。このアイレス氏は、トランプ大統領の主要な支持者としても知られている人物。そして、トランプ大統領はミスユニバースやミスUSA、ミスティーンUSAなどのビューティー・パジェントの運営をかつてしていたことがある。運営に関わっていた時代、トランプ氏はあろうことか出場者の控え室にズカズカと入り、候補者を試着室で裸にし、自ら「審査」をしていたという話まで報道されているのだ。

カールソン氏は#MeTooムーブメントの推進者としても活動しており、今回の報道以来、ツイッター上では新たに「#byebyebikini」(ハッシュタグ・バイバイビキニ)ムーブメントも起こっている。水着審査の廃止は、彼女の周辺にいる卑猥でデリカシーのない男たちや昨今のハラスメント問題に対しての、反骨精神から考え出されたのかもしれない。

次回「ミス・アメリカ2019」が開催されるのは、今年の9月9日(日)。新時代にふさわしい美のコンテストの幕開けとなるか?

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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