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カッコイイだけじゃ世界で勝てない。K-POPアイドルのUSツアーで見た韓国エンタメの本気度

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
GOT7のメンバー。昨年12月に撮影されたもの(写真:ロイター/アフロ)

7人組のK-POPアイドルグループ、GOT7(ガットセブン)の初のアメリカツアー「Fly in USA」(全5都市7公演=ニューヨーク、ロサンゼルス、ダラス、シカゴ、アトランタ)が7月1日から11日まで行われ、全米で旋風が巻き起こった。

ニューヨーク公演は7月5日、6日の2日間行われ、私はその初日、クライアントからの依頼でライブに行く機会があった。私にとっては初K-POP体験となった。

そのクライアント(Cさん)は、東京のテレビ業界で働く30代の日本人女性。GOT7の大ファンで、今回のUSツアーのために仕事を休み、ダラス、シカゴ、そしてニューヨーク2日間の4公演を追っかけに来たという。

仕事の依頼を受けた際、私はこのグループの存在はもちろん名前すら聞いたことがなく、失礼ながら「アイドル好きのアジア系アメリカ人がキャーキャー騒ぐのだろう」ぐらいに高を括っていた。しかし同時に、Cさんをそこまで熱狂的にさせているその韓国アイドルの魅力とは一体どういうものか、知りたいとも思った。

開演前から長蛇の列

午前中から並んだファンも

ニューヨーク公演の初日、Cさんとは夕方、会場前で落ち合った。まだ開演時間の2時間半前だというのに、会場のあるブロックをズラッと囲むように長蛇の列ができている。長さを厳密に説明するのは難しいが、行列の中からCさんを見つけ出すのに先頭から歩いて5分強かかったと言えば少しは想像がつくだろうか。

チケットを事前購入しているのに並ぶ理由は、チケットごとのブロック内で少しでもステージに近い位置でライブを観るためだ。

タイムズスクエアにある会場、PlayStation Theater前。開演2時間半前ですでにこのような状態。(Photo: Kasumi Abe)
タイムズスクエアにある会場、PlayStation Theater前。開演2時間半前ですでにこのような状態。(Photo: Kasumi Abe)

2100人収容の会場

アメリカ人ファンで満員に

開場時間となり、ステージ近くのチケットを持つCさんと会場後方の座席チケットの私は、ここでいったんお別れ。

会場内を見渡すと、観客は20代前後の女性がメインで、人種は私の予想に反して白人、黒人、ヒスパニック系、アジア系とさまざまだった。彼女たちに付き添ってきたと思われる母親世代の女性や男性も見かけた。

どこぞの日本人大御所歌手が以前ハーレムでライブをしたとき、観客のほとんどは現地在住の日本人だったにも関わらず、日本のテレビクルーがアメリカ人だけを選んでインタビューし、いかにも「ニューヨーカーに人気」のように報じられていたのとはわけが違うなと感じた。

私の座席番号のシートの隣には、同じように1人客の女性が座っていた。彼女は18歳になる娘とメリーランド州からわざわざこのライブのためにやって来たという。この日は2人で午前10時から並び、その甲斐あって娘はステージの間下の最前列を確保できたそうだ。

アメリカにいながらどうやってK-POPを知ったのかと問えば、ソーシャルメディアだという。「娘がGOT7のファンになって以来、車の中で常に彼らの音楽をかけているものだから、私も自然に覚えてしまったのよ」「チケット代(1枚300ドル台)にニューヨークのホテル宿泊費(平均一泊300ドル前後)と、このグループのニューヨークライブに私たちいくら出費したのかしら?」と苦笑い。

いよいよ開演

会場が大きく揺れた

午後7時30分。いよいよ照明が落ち、幕が開いた。客席を埋め尽くす2100人が総立ちとなり、おのおのが好きなメンバーの名前を叫び、飛び跳ねながらペンライトを振りかざす。メンバー7人がステージに登場すると、会場がさらに大きく揺れた。

ニューヨークライブ初日の様子。初めて生でメンバーを見たファンも多かったようだ。(Photo: Kasumi Abe)
ニューヨークライブ初日の様子。初めて生でメンバーを見たファンも多かったようだ。(Photo: Kasumi Abe)

この全米ライブの日をメンバーもファンも待ち焦がれていたようで、はちきれんばかりのエネルギーが会場全体に渦巻いた。隣の母親も、冒頭からスタンディング状態で曲に合わせて一緒に歌い、「娘の付き添いで来た」というのがなんだかカワイイ言い訳のようにも感じられるほどだった。

曲の合間には、ジョークまじりのMCを全編英語で小気味よくするメンバーたち。しかもアメリカンアクセントのこなれた感じで。

GOT7の魅力は、端正な顔立ちやルックスはもちろんのこと、歌のうまさや切れのいいダンスにあると言われている。楽曲も数回耳にしただけで簡単にサビを覚えられるくらいポップでキャッチー。

それに加え、彼らがローカルファンを魅了しているのは、その歯切れの良いおしゃべりと気取らないキャラクターだと感じた。流暢に「Hey guys, what’s up?」(ねぇみんな、元気?)と、あくまでも“自然”に、まるで旧知の友人に話しかけるかのような飾らない印象だ。

多彩な才能+マルチリンガル

これが備わっていれば時代が見方をしてくれる

GOT7のメンバーの出身国は韓国、アメリカ、香港、タイとさまざま。よって彼らは英語、中国語、タイ語と他言語を操ることができる。その上驚くことにCさんいわく、日本でライブをする際はMCは全部日本語なのだとか。日本語は韓国でデビューした頃からドラマなどを観て徹底的に学んだようだ(英語と日本語は下記の動画参照)。

もともとアメリカではアジア人ミュージシャンがブレイクしづらいと言われてきたが、今回のGOT7のUSツアーはその定説が過去のものであることを証明した。彼らがこの世界の大舞台に到達できたのは恵まれたルックスや才能はもちろんのこと、外国語の習得を含む並ならぬ努力の賜物だろう。もちろん、ソーシャルメディアによる拡散力の恩恵を受けていることも付け加えておきたい。

私は日本人だから、日本人ミュージシャンがどんどん世界で活躍する姿を見てみたい。日本のアイドルがGOT7のように、アメリカで成功できるかどうか? それは、“世界”を視野に入れて勝つための戦略を立てているか、それとも国内だけで満足するのか、どちらに腹を据えるのかによるだろう。そしてそれは音楽業界のみならず、どんな業種でも通じるものではないだろうか。

最後にGOT7を知らない人のために、地上波1位をとった最新曲『FLY』をどうぞ。

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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