フィリピンの川守る「清掃隊」 プラごみとの終わりなき戦い
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【12月7日 AFP】フィリピン首都マニラの悪臭漂う川で、長い柄の付いた網を片手にプラスチック製の飲料ボトルや買い物袋、手のひらサイズの小袋などを回収するロンネル・ナルバスさん(30)。 ナルバスさんは、フィリピン政府がマニラ市の河川を清掃するために雇用している清掃員の内の一人だ。 「がっかりさせられる。どれだけ一生懸命に清掃してもごみは無くならないから」とナルバスさんはAFPに終わりの見えないごみとの闘いについて話す。 「けれども、やり続けなくてはいけない。そのままどんどん増え続けるのを抑えることはできているのだから」 同国では不適切なごみの収集サービス、処分場とリサイクル設備の不足、深刻な貧困が、国中で増大するプラごみ問題の根底にあると指摘されている。 環境省の統計によると、同国では1日当たり約6万1000トンのごみが排出される。そのうちの最大24%がプラスチックだ。 オランダのNPO「オーシャン・クリーンアップ」の2021年の調査では、世界で最も多くのプラスチックを海に排出している国はフィリピンだとされた。 また同調査は、マニラ湾に注ぐパシグ川が世界で「最も汚染された」川と名指しした。 フィリピンでは、シャンプーや台所用洗剤、コーヒーなどの日用品を少量に小分けされた小袋で買う人が少なくない。丸ごと一つを買うだけの経済的余裕がないことがその理由だが、こうした小袋などの使い捨てプラ製品も川の汚染の大きな要因となっている。 パラニャーケ川沿いの粗末な高床式の小屋に住むエマ・ギリエゴさん(58)は、20年前に家族と川沿いに移り住んで以来、一度もごみ収集車を見たことがないと話した。 年に数回、市の衛生担当者がこの地区を訪れ、ごみの分別について住民に指導しているが、それでも周囲にはプラごみが散乱している。 ギリエゴさんは「近所の人が川にごみを捨てても注意はしない。他人の生活に口出しはしたくないから」と言う。 ■使い捨てプラスチックに「特定の役割」 フィリピンでは近年、リサイクルセンター設置の他、プラスチック廃棄物に対して企業に責任を持つよう促すなど、さまざまな取り組みが行われてきた。 世界銀行の環境問題の専門家ジュニュ・シュレスタ氏は、問題に対処するための法整備でフィリピンは賞賛に値する努力をしたとAFPに話す。 そうした法整備は、問題解決へのロードマップとなったが、実行に移せるかどうかは「また別の問題」だと指摘した。 世界銀行が2022年に公開した調査報告書によると、人口1400万人のマニラで日々排出されるごみの内、回収、分別、リサイクルされるのは約60%にとどまっているという。 マリア・アントニア・ユーロロイザガ環境天然資源相はAFPに、同国ではごみの分別とリサイクルは「始まったばかり」で、使い捨てプラスチックの廃止は当面ないと話す。 使い捨てプラスチックは「現時点でのこの国の経済の中では、ある所得層にとって特定の役割を果たしている」と説明した。 清掃員のナルバスさんは、毎日汚い川に入るのは気持ちの良いものではないが、自分の仕事が水害発生の予防に貢献していると信じている。 それでも、地域住民の川へのごみ投棄がなくなることを切に願っているし、「気が滅入る」と言う。 「しかし、これがわれわれの仕事。もう慣れた。やり続けるしかない」 映像は2023年12月と2024年4月に撮影。(c)AFPBB News