「韓国経済はまるで養鶏場」LCC危機で露呈したビジネスモデルの限界
立ち行かないLCCの運営
航空会社のなかでも大ダメージを受けるのは、大韓航空やブリティッシュ・エアウェイ25ズ(英国航空)のようなナショナル・フラッグキャリア(国を代表する航空会社)ではなく、ローコストキャリア(LCC=格安航空会社)であるのは疑いない。 LCCはオペレーティングリースを基本としており、自社の機体を保有する企業はほとんどない。たいていの場合、リース契約期間中の途中解約は認められていない。そのため、運航できない状態が続けば、リースコストが経営を圧迫するのみになる。 各国ともに運航再開はナショナル・フラッグキャリアが優先され、LCCは後回し。これは空港のオペレーションを考えても仕方がないことだ。飛行機の運航以外に燃料の積載や修理点検、空港内の移動は、各航空会社が各社の責任で行なっているが、LCCはほとんどの場合、大手航空会社に代行してもらっている。それでナショナル・フラッグキャリアの運航再開が後回しになって、誰が納得するかという話である。 そう考えると、2021年最初に破綻が進むのは、LCCなのは間違いない。
韓国のメイン空港に旅客が来ない
それでも日本の航空会社はだいぶマシ。世界的にみて最も大きなダメージを受けているのが、韓国の航空業界である。 韓国と言えば、同国の航空業界第5位のイースター航空の経営危機を忘れてはならない。2019年の日韓関係の悪化に伴い、韓国の航空各社は日本乗り入れ便を次々と運休させた。いわゆる「No Japan」キャンペーンである。 これにより国際線の半分近くを日本行きに頼っていたイースター航空は大きな痛手を負った。客室乗務員に最長4週間の無給休暇を取るように要請するなど、末期的状況に陥り、2019年にはチェジュ航空による買収が決定した(2020年7月に買収撤回)。 こうした状況に2020年のコロナ禍が重なり、韓国のLCC(格安航空会社)はどこも青息吐息だ。イースター航空の買収に動いたチェジュ航空も先が見えない状況が続く。 そもそもLCCは基本的に航空サービスのための資産がなく、オペレーティングリースで回している。とくにアジアのLCCは短距離便中心で、エアバスA321とボーイング737を中心とした小型機を運用している。 小型機による短距離便で日本を中心とした地方空港や、オープンスカイ協定に基づいて、地方間の空港便を飛ばしていた。日本の空港だと成田や羽田ではなく、たとえば清州―新千歳など、国内便と同様に地方空港間の便を中心に運用している。 LCCが担っていた役割が、もう一つある。韓国のメイン空港である仁川に旅客を集めることである。国際空港をハブにして、仁川から中長距離便で欧州やその他の地域に飛ばしていた。 ところが、コロナ禍で欧米に行けない。地方間の航空便は完全に止まっている。そうなるとLCCは収入がないうえに、リース代など運営コストばかりがかさむ悪循環に陥る。飛行機そのものも小型機なので、貨物機としての運用ができない。これだけ悪い影響があれば、LCCは存続そのものが厳しくなる。 人口5000万人程度の国の規模で航空会社9社は多すぎるのは明らかなのに、2020年春に2社が新規に参入予定であった。マーケットが飽和状態になって、共倒れの危機に陥るのは子供でもわかる理屈だろう。幸いと言うべきか、新規参入はコロナ禍で保留になっているが、韓国の自己破滅的な経済運営は国家全体を沈没させかねない。 同じ航空会社でもナショナル・フラッグキャリアの大韓航空はまだ自社保有機が多いが、アシアナ航空の場合、8割近くがオペレーティングリースなので相当苦しい。現在、アシアナ航空の買収交渉を進めている会社がいくつかあるが、交渉が頓挫すれば、アシアナ航空も破綻する可能性はある。 韓国の産業構造は養鶏場と一緒。儲かると思ったら、市場規模も考慮せずにぎゅうぎゅうに詰め込む。その結果、マーケット全体が健全性を失い、極端な場合、健康な鶏まで一緒に死んでしまうのである。
渡邉哲也(経済評論家)