上野動物園「シャンシャン」の返還延期 中国の「パンダ外交」
【東方新報】東京・上野動物園(Ueno Zoo)の人気者、パンダの香香(シャンシャン、Xiang Xiang)の中国への返還時期が、年内から来年5月に延期となった。延期の方針が明らかになった今月10日、中国外務部の華春瑩(Hua Chunying)報道局長は「もともと年末に戻る予定だったが、新型コロナウイルスの影響で、予定どおり戻るのは難しくなった」と定例会見で言及した。 外務部の定例会見といえば、通常は国際的な政治、経済をめぐり国内外の記者との質疑応答が行われる場だ。華氏も日ごろは中国政府の方針・政策をアピールし、「釣魚島(尖閣諸島、Diaoyu Islands)は中国固有の領土だ」と中国の国益に基づいて発言している。この日はシャンシャン返還の質問に柔和な笑顔を浮かべ、「私たちは、日本の国民がシャンシャンとの別れを惜しんでいることはよく分かっている。とりわけ上野動物園が心を込めてシャンシャンに行き届いた世話をしてくれていることに大変感謝している」と感謝の意を示した。そして「パンダは両国の友好の使者となり、友好の感情を促進するために独自の貢献を果たしている」と強調した。 メスのシャンシャンは3年前、東京都が中国から借りているオスの力力(リーリー、Li Li)とメスの真真(シンシン、Zhen Zhen )の間に生まれた。都と中国側が結んだ協定では、シャンシャンが2歳となった昨年6月に返還される予定だったが、日本側の声に応じて今年末までに延長されていた。そしてコロナ禍によりパンダの輸送に同行する日中の専門家の渡航が困難なため、さらなる延期が決まった。上野動物園周辺ではJR上野駅や商店街、百貨店で、別れを惜しむ「ありがとうシャンシャン」キャンペーンが行われていたが、返還延期に喜びの声が上がった。 返還延期はコロナ禍によるものだが、「パンダ外交」を展開する中国政府にとっては「渡りに船」の側面もある。華氏が会見で述べたように、パンダは国際関係において絶大なる「友好の使者」となっているからだ。 中国のパンダ外交は1930年代にさかのぼり、日本には中国との国交正常化を記念して1972年、康康(カンカン、Kang Kang)と蘭蘭(ランラン、Lan Lan)のつがいが上野動物園に無償提供された。日本で空前のパンダブームが起き、中国のイメージアップにもつながった。ワシントン条約でジャイアントパンダの国際取引が禁止されて以降も、パンダは「国際繁殖研究」の名目で期限を付けて借り出されている。 米中間の政治・経済の対立が長期化する中、シャンシャンの返還延期により日本の対中世論が改善されることは中国側にとって願ってもないことだ。今回、シャンシャンの両親のリーリーとシンシンについても来年2月の返還期限を5年間延長することを決めている。シャンシャンがいなくなった後も、新たな「友好の使者」である赤ちゃんを産むことをにらんだ措置だ。 パンダの返還延期は、日本だけの話題ではない。今月7日、米国スミソニアン国立動物園で飼育しているオスの添添(ティエンティエン、Tian Tian)とメスの美香(メイシャン、Mei Xiang)、そして8月に生まれたばかりの赤ちゃんの中国への返還期限が、2023年まで3年間延期された。民主党のジョー・バイデン(Joe Biden)前副大統領が大統領選で勝利したことで、今後の米中関係の雪解けを望むシグナルとも受け止められる。中国はパンダ外交で二の手、三の手を打っているといえる。(c)東方新報/AFPBB News ※「東方新報」は、1995年に日本で創刊された中国語の新聞です。