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『ダークナイト』IMAXフィルム撮影を劇映画に取り入れたノーランの野心とは

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CINEMORE

大きな可能性を求めて導入されたIMAXフィルム撮影

 クリストファー・ノーランが無類のIMAX好きであることは、作品全体の7割以上をIMAXカメラで撮影した『 ダンケルク』を例に取るまでもなく、多くの映画ファンに知られていることだろう。IMAXといっても現在主流になっているデジタルのIMAXではない。そもそもIMAXは、70mmフィルム(フィルム幅が70mm)を横に使うことで、従来の35mmフィルムより約8倍の情報量/高画質を実現したフォーマットで、ノーランはこの7mmフィルムを使った撮影と上映に執着にも似たこだわりを持っているのだ。  ノーランが自作に初めてIMAXを取り入れたのが、ノーランによるバットマン映画の第二弾で、ジョーカー役を怪演したヒース・レジャーにオスカー像をもたらした『ダークナイト』だった。フィルムならではの質感と他の追随を許さない高画質を誇るIMAXだが、撮影機材が巨大で重量があり、また、一度に3分程度しか回せない、ポストプロダクションも高価であることなどから劇映画の現場ではあまり使われず、IMAX専用シアター向けの短編や中編、とりわけ大自然や宇宙などの教育系ドキュメンタリーに重宝されていた。ところがノーランは、IMAXに大きな可能性を感じており、『ダークナイト』で初めて劇映画の撮影に本格的に導入したのである。

なぜIMAXなのか?

 IMAXの特徴として「高画質」と書いたが、フィルム上映のIMAX(ならびにIMAX次世代レーザー)の魅力は、“画が綺麗”程度では説明し切れない。従来の劇場で映写される映画との最大の違いは、縦横比が1:1.43であること。普通のワイドスクリーンよりも上下が25%程度広く、より正方形に近くなる。その映像が、大きいものはビル8階建て分とも言われる巨大なIMAXスクリーンに映写されることで、視界のすべてが映像で覆いつくされる感覚に陥るのである。簡単に言い換えると、映画の“枠”をまったく気にしなくなる。フレーミングされた作品を鑑賞するという意味での“映画”という概念を覆すような映像体験なのだ。  IMAX撮影自体は、多くのアクション大作でも取り入れられている。よくある使用法としては、ポストプロダクションでCGIなどの合成をすることを踏まえて、迫力あるアクションシーンなどで高画質の素材を撮影するために使われる。また、ポール・トーマス・アンダーソンのように、美しいフィルムの質感を求めての審美的な理由からIMAXを好む監督もいる。  しかしノーランは、IMAX本来の、巨大スクリーン+超高画質+フィルムの質感が三位一体となった映像の力をそのまま映画に持ち込もうと考えたのだ。ノーランのIMAX構想は15年前からあり、派手な見せ場だけでなく「静かなシーンで得られる効果」に興味があったとも語っている。そんな野心に満ちた最初の試みが『ダークナイト』であり、『ダークナイト』の成功がなければ『ダンケルク』はコンセプトの段階から頓挫していたかも知れない。

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