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八木沼純子はフィギュアの奥深さを 14歳で知った。見惚れた女王の演技

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フィギュアスケートファンなら誰もがあるお気に入りのプログラム。ときにはそれが人生を変えることも――そんな素敵なプログラムを、「この人」が教えてくれた。 【写真】ロシア女子エキシビション フォトギャラリー 私が愛したプログラム(3)八木沼純子(解説者、キャスター)『カルメン』カタリーナ・ヴィット  私のお気に入りのプログラムは、小さい頃から憧れていたカタリーナ・ヴィット選手が1987年-88年シーズンに演じたフリーの『カルメン』です。ダイナミックで華やかな『カルメン』は、未だ色褪せることなく私の中に強く残っています。当時は東ドイツのスケーターとして競技会に出場していたヴィット選手の素敵なプログラムのひとつです。  採点方法が現行ルールとは違うので、いまのファンの皆さんが見ると物足りなさはあるかもしれません。それでも、元選手として、あのカルガリー五輪の場で見て感じた者としてお話しさせていただければ、ひとつの物語として構築された世界観であり、カタリーナ・ヴィットのあの当時の個性を生かした『カルメン』を作り上げ、あの時勝つための計算された内容だったと思います。それを見事なまでに踊り、滑りきったことで、完成されたプログラムとして、踊り手と作り手の思いが凝縮された作品になっていたのではないでしょうか。  あの当時、氷の上に寝そべることは、確かにNGでした。それをヴィット選手は、『カルメン』のフィニッシュを、寝そべって終わらせていた。物語上、男性に刺されて死に絶えるという場面を、舞台上で演じるように、氷上にその場面を投影させた終わり方でした。ジャッジ側からの減点はあったかもしれません。  ヴィット選手には、「私のカルメンの世界はこうだ!」という、誰にも譲らない、確固たるそれまで培ってきた自信と強さ、そして艶やかさがありました。

振付師も、より演劇に近いつくり方をしていたのではないかと思います。演出や4分間をカルメンとして自由奔放な魔性の女性の生き方が終わりにも表れ、よりドラマティックな効果がありました。24歳のヴィット選手が演じた『カルメン』は、そういった意味でもとても印象に残っています。  トリプルジャンプを5種類跳んだりすることはないし、3+3の連続ジャンプは入れていません。でも、曲全体の作り方や演技構成の起承転結といいますか、最初に鐘の音から始まり、物語が展開されていって、最後はホセに刺されて氷上で花が散るように終わっていく。  そのプログラムの作り方と音楽の構成が、あの当時まだ10代だった私には印象が強く、だからこそ、いまでも心の中に残っているのではないかなと思います。  このプログラムには、いろんな話題もありました。カルガリー五輪シーズンは、ヴィット選手と金メダルを争った米国選手のデビー・トーマス選手も同じ『カルメン』の曲を使っていました。  普通ならライバルと同じ曲は避けるところを、敢えて同じ曲で対決するという対抗心は、ある意味、すごいですが、それぞれ音の構成も魅せ方も違う。表現力に定評のあるヴィット選手も、しなやかなスケーティングとジャンプが得意だったトーマス選手も、それぞれが勝てる自信と計算があったからこそ、同じ『カルメン』で戦ったのだと思います。

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