どうなる鉄道経営 五輪見据え投資増もコロナ禍で収入減 迫られる計画転換
関東私鉄が軒並み赤字計上 短期的に見れば定期外利用の減少が打撃
私鉄各社の2020年度中間決算は、新型コロナウイルス感染症の影響により厳しい数字が並びました。例えば東急の連結経常利益は2019年度上期(4~9月)の約461億円から、2020年度上期は約194億円の赤字に転落。この他、京成電鉄が約199億円、小田急電鉄が約220億円、西武鉄道が約346億円の赤字をそれぞれ計上しており、東京都に路線を持たない相模鉄道のみが約33億円の赤字と健闘した程度です。 【写真】列車で運ばれるホームドア 最大の要因はグループ経営の柱である鉄道事業の落ち込みです。東急電鉄の輸送人員は第1四半期(4~6月)の約45%減(前年同期比、以下同)から、第2四半期(7~9月)には約32%減まで回復したものの、テレワークの普及など新しい生活様式が定着しつつあることから、コロナ禍前と同水準まで回復することは困難と見られています。 ただ、鉄道会社にとって打撃となっているのは、短期的に見れば、通常のきっぷや回数券など定期券以外で乗る定期外利用者の減少です。東急の場合、2019年度上期の輸送人員のうち、定期券利用者は約3億7790万人、定期外利用者は約2億4080万人でしたが、運賃収入で見ると、定期券利用者の約337億円に対し、定期外利用者は約393億円と上回っていました。それが2020年度上期は、定期券利用者が約2億3960万人で約226億円(111億減)、定期外利用者が約1億4165万人で約228億円(165億減)となっており、定期外収入の落ち込みが目立ちます。 コロナ禍以前の関東私鉄の定期券利用率は概ね60%前後でしたが、定期券は割引率が高いことから、収入で見ると定期外が60%前後を占める構造になっていました。定期外利用つまり日常のお出かけ需要の落ち込みは、鉄道会社の重要な副業である百貨店、レジャー、リゾート事業にも大きな影響を及ぼしています。
ホームドア設置やライナー導入 原資は潤沢な運輸収入だった…
東急のセグメント別営業利益を見ても、2020年度上期は運輸事業が約122億円の赤字に対し、ホテル・リゾート事業は約185億円の赤字となっており、鉄道事業の不振を支えるどころか、それ以上の赤字を生み出してしまっています。こうした状況は東急以外の大手私鉄でも同様の構図となっており、人の移動を中心に事業を営んでいる鉄道会社にとって、コロナ禍の影響の大きさを物語っています。 一方で輸送人員のうち、定期券利用者は第1四半期の39%減から第2四半期は35%減へとほぼ横ばいなのに対し、定期外利用者は第1四半期の56%減から第2四半期は26%減まで大幅に回復しており、今後も緩やかな回復が見込まれます。しかし、定期券利用者の完全な回復は困難な見通しで、鉄道会社にとって重要な顧客であった通勤客の減少は、長期にわたって経営に大きな影響を及ぼすことも予想されます。 近年、関東の大手私鉄は通勤ラッシュ対策やホームドア設置などの安全対策、着席通勤ライナーの導入などサービス向上に加え、東京オリンピック・パラリンピックに向けた大規模投資を行ってきましたが、これらの投資の原資となっていたのが潤沢な鉄道運輸収入でした。しかし、鉄道事業が赤字に転落したことを受け、各社とも設備投資を見直す動きが加速しています。