100万年前のマンモスのDNAを解読、史上最古、定説白紙に
ついに「100万年の壁」を突破、マンモスの進化に新たな知見と謎
科学者たちが古代のゲノム研究における従来の壁を打ち破り、史上最古のDNAの解析に成功した。そして、氷河期の北米大陸にいたコロンビアマンモス(Mammuthus Columbi)やケナガマンモス(Mammuthus primigenius)の進化の謎を解き明かす新たな扉が開かれた。 ギャラリー:2019年「マンモス展」で展示された太古の動物たち 写真11点 これまでに配列を決定された最古のゲノムより倍近くも古い、100万年以上前のマンモスのDNAを解析した結果が2月17日付けで学術誌「Nature」に発表された。マンモスのゲノム配列が決定されたのは初めてではないし、この研究によってマンモスを復活させられるようになるわけでもないが、急速に発展している古代ゲノム研究の世界において、画期的な進展がもたらされたと言える。 今回のDNAは、マンモス研究における伝説的存在であるロシアの古生物学者、アンドレイ・シェルが1970年代初頭にシベリアで発見した3本のマンモスの大臼歯から採取されたものだ。3本のうち最も新しい歯の年代は約50万年から80万年前で、古い方の2本は約100万年から120万年前と推定されている。これまでに解析された最古のDNAは、カナダのユーコン準州で発見された70万年近く前の馬の化石のものとされていた。 「100万年という見えない壁を破ることで、新しい『時間の窓』が開かれたというか、進化的観点における新たな展望が開けたように思います」と、論文の筆頭著者であるスウェーデン、ウプサラ大学の生命情報科学者、トム・ファン・デル・バーク氏は言う。同氏はこの研究を行っていた当時、ストックホルムにある古遺伝学センターに所属していた。 今回の発見によって、マンモスの進化に関する科学的知見に驚くべき事実が加わった。まず、この古代のDNAは、北米の主要なマンモス種の一つであるコロンビアマンモスが、40万年から50万年前に交雑により誕生した種であることを強く示唆している。古い方のDNAの系統は、この交雑が起きるかなり前から存在していたことがわかったのだ。「脊椎動物のような高次の生物で、種の起源よりも古いサンプルが調査された例は他にないと思います」と、共著者である古遺伝学センターの遺伝学者、ロベ・ダレン氏は言う。 DNAをさかのぼればさかのぼるほど、科学者たちは進化の仕組みについてより良く知ることができる。この研究の成功はまた、条件が完璧に整ってさえいれば、ひょっとすると数百万年単位で、進化の過去をより深く覗き見られる可能性を示唆していると、著者らは述べている(それ以上古くなると、おそらくDNAは再構築するには小さすぎるほどバラバラに壊れてしまう)。 歯の分析が始まったのは、古遺伝学センターがロシア科学アカデミーからサンプルを受け取った2017年のこと。コロナ禍にはお馴染みとなった防護服を身に着けて、遺伝学者パトリチア・ペチュネロワ氏(現在はデンマーク・コペンハーゲン大学の博士研究員)が率いるチームが、それぞれの骨から50ミリグラムずつ骨粉を採取した。これを溶液に浸し、少量のDNAを慎重に抽出する過程を経て、DNAはコショウの実ほどの液体に凝縮された。 「フェイスマスクとフェイスシールドを付けて、まるでまゆの中にいるようでした。汚染を最小限に抑えるためです」とペチュネロワ氏は言う。「たった1つの(ヒトの)細胞が試験管に入るだけで」サンプルが台無しになってしまう可能性があるのだ。 DNAの塩基配列の決定は第一段階に過ぎなかった。次に、ファン・デル・バーク氏らのチームが、このDNAの断片が真に古く、真にマンモス由来のものであることを確認する作業を行った。 歯は微生物だらけの永久凍土に100万年以上もの間、埋もれており、発掘から50年近くの間に数え切れないほどの科学者に取り扱われてきた。汚染を防ぐために最善の努力がされてきたはずとは言え、ここまでの旅路で付着してきた余分なDNAと、チームは格闘しなければならなかった。 何週間もかけてコンピュータによる解析を行った結果、短いもので35塩基対からなるマンモスのDNA断片を識別し、実際には30億塩基対以上だったゲノムにそれらをマッピングできた。