苦さ味わい夏への誓い新た 大阪桐蔭・松浦慶斗投手 選抜高校野球
第93回選抜高校野球大会第4日の23日、昨秋の近畿大会決勝の再戦で優勝候補同士の対決となる注目のカードで大阪桐蔭のエース松浦慶斗投手(3年)が登板。ところが智弁学園(奈良)相手に立ち上がりから苦しみ、一回、3四死球に2安打を浴びて4失点。背番号1を背負って初めて立った甲子園のマウンドは夏への試練を突きつける苦いものとなった。 【智弁学園―大阪桐蔭戦を写真で】 2020年の秋季大会の前、背番号1をもらった。寮で前エースの藤江星河さん(18)から少し黒土がしみこんだボールを手渡された。そこには黒色のペンで、「松浦へ 桐蔭の『1』に相応(ふさわ)しい選手になってほしい。誰もが認める人になれるよう頑張れ‼」と記されていた。その前のエースの言葉も書かれており、エース間で受け継がれてきたボールだった。 春夏計8回の優勝を誇る同校は全国各地から選手が集う。みんなが口にするのは「日本一」だ。松浦投手も北海道旭川市から桐蔭の門をたたいた。日本一になるために。ただ、藤江さんは、野球の素質は認めるが、物足りなさを感じていた。「松浦は真剣に取り組んでいるつもりかもしれないが、上の世界で通用するかというとそうではなかった。練習で手を抜いているように見えて、野球に対する甘さがあった」 2年間一緒に過ごし、松浦投手には精神面の成長が必要だと感じていた。「大阪桐蔭の背番号1は、他の高校や野球ファンから注目される。恥のない投球、人間性が身についたら全国制覇につながるのではないかな」。ボールに書き込んだ言葉にはこんな思いが込められていた。 松浦投手も「自分のことをみんな不安の目で見ている。松浦で負けたら悔いはないというピッチャーにまだなれていない」と自覚する。携帯電話の持参が禁止のため、この日アルプス席から見守った父吉仁さん(49)も学校の公衆電話から掛けてくる息子の連絡を待つことしかできない。背番号1をもらった時には「恥じないよう頑張る」とうれしそうな声で掛かってきたという。 行動は変わった。秋季大会では、マウンドを降りたら捕手に防具を持って行き、「声」が持ち味のチームの中でもベンチ前へ体を乗り出し大きな声で仲間を鼓舞するなど裏方を率先する姿があった。藤江さんがエースの時に自身に取ってくれた行動がかがみになった。 この日は昨秋の近畿大会決勝で敗れた智弁学園に「絶対に初回抑えたろ」と臨んだが「空回りした」。池田陵真主将(3年)も「痛かった」と敗因に挙げた立ち上がり。二回以降は落ち着きを取り戻したが五回の攻撃で代打を出されて降板となった。誰もが認める桐蔭の背番号「1」にはまだ遠いが、この経験も糧になる。「もっと良いピッチャーになって帰ってくる」。夏への誓いを心に立てた。【荻野公一】