将棋ソフトと棋士の戦いは「AI対人間の象徴」映画監督・山田篤宏が「AWAKE」で描いたもの
将棋のプログラム開発者と、かつてライバルだった若手棋士との対決を描いた映画「AWAKE」が12月25日に全国公開される。主人公・英一に吉沢亮、天才棋士・陸に若葉竜也、英一の先輩役に落合モトキと、若手実力派俳優が集ったとして注目を集めている作品だ。商業映画デビューとなった山田篤宏監督は、実際に行われた将棋ソフトと棋士の対抗戦「将棋電王戦」から、どっぷりと将棋の世界にハマった一人。この戦いを「AI対人間の象徴」という言葉で表現した。 将棋に限らず、世の中のいたるところで活躍し始めたAI(人工知能)。人間が一生かけても取り込めない量の情報を驚異的なスピードで学び取り、成長を遂げる。将棋であれば、対局の記録である「棋譜」を大量に読み込ませることで、あっという間に強くなる。2017年に行われた対局では、Ponanza(ポナンザ)が当時の佐藤天彦名人に連勝。これを最後に、公の場で将棋ソフトと棋士の戦いは行われなくなった。 「AWAKE」が棋士と戦ったのは、それから2年前の2015年。「将棋電王戦FINAL」五番勝負の最終戦に登場した。本作は、この戦いがモチーフになっている。進化が止まらないAIに対して、棋士が追い込まれていた時期。この状況を、山田監督はAI側に寄ることも、棋士側に寄ることもなくフラットな気持ちで見ていたという。
山田篤宏監督(以下、山田) 僕自身が将棋に決定的にハマったのが、電王戦FINALの五番勝負を通しで見たことです。最終戦になった時、「AWAKE」開発者の巨瀬亮一さんが元奨励会員(※奨励会=プロである棋士の育成期間)という経歴があったし、その対局の結末もすごくおもしろいものでした。この対戦者同士が小さい頃からのライバルだったとしたら、普遍的なドラマを描けるのではないかと思ったし「AI対人間」という、非常に現代的なモチーフもあったので、今の時代にそぐうものになるんじゃないかと思って、映画の企画として考え始めました。 実際に行われたAWAKEと棋士・阿久津主税八段との戦いは、関係者・ファンに衝撃を与える、まさかの結末を迎える。持ち時間各5時間の対局ながら、対局時間はわずか49分、21手という超短手数で、阿久津八段が勝利した。この勝ち方が、真正面から戦ったのではなく、AWAKEの欠陥とも言える弱点を突いたものだったとして、その戦い方に賛否両論が巻き起こった。 山田 今も昔も、僕はどっちが悪いとも思っていないんです。当時もそうおっしゃっていた棋士の先生もいらっしゃいましたし。現実を美化するつもりは全くないですが、かといって過剰にどちらかに寄ることもなく、ただ本当に「正しい、間違い」はない。どちらも正しい。「これも将棋」というのが、僕には一番しっくり来ました。 プロになれなかった元奨励会員が作った将棋ソフトに対して、勝利に徹するなら弱点を突くのが最善と批判覚悟で指し切った棋士。単なるAI対棋士の戦いではなかったことに、山田監督の心が大きく揺さぶられたようだ。 2020年の流行語大賞のノミネートには、天才棋士・藤井聡太二冠が指した一手による「AI超え」が入った。将棋ソフトであっても、かなり深く読み込まなければ見つけられなかった手を、藤井二冠が指したことに由来する。ただ、この言葉が各メディアで大きく取り上げられたことに、山田監督は人の内側にある“アンチAI”にも似た感情を読み取っている。