《ブラジル》【記者コラム】なぜ今、200レアル新札発行なのか?
ブラジル中央銀行は突然、7月29日に「200レアル札」を8月から発行すると発表して、国民を驚かせた。1994年7月1日、レアル・プランが始まって以来、実に26年ぶりに最高額紙幣が更新されることになった。今年中に4億5千万枚も造幣すると発表されている。価値にして900億レアルにもなる。 「タテガミオオカミ」の図柄だそうだが、国民の間では「イノシシ」〈ポ語でjavaliなので“ja vali”(価値がある)と掛けたシャレ〉、「大統領に噛みついたダチョウ」、「大統領が一時飼っていた野良犬」など、いろいろな珍アイデアのミーム(面白画像)がネット上に溢れている。 日本では戦後、登場人物が替わることはあっても、1万円札以上の紙幣が作られることはなかった。だが、ブラジルではたった四半世紀で「2万円札」ということになる。 どうして100レアルの増刷では間に合わないのか。なぜそれが必要になってきたのか。一体、どういう理由なのか。 その理由の一つは、間違いなくコロナショック。中銀が公表しているデータによれば、3月までにブラジルで流通していた紙幣量は2160億レアルに過ぎなかったが、6月には2770億レアルになった。いきなり3分の1も急激に増えた計算になる。 いうまでもなく600レアルの緊急支援金支給が大きな理由だ。全国民の約3分の1に相当する6500万人が受け取っている。成人なら軽く半分以上だろう。彼らの大半は銀行口座を持たない、現金で生活している層なので、現金という形でないと手に届かない。だから一気に紙幣需要が急増した。 CAIXAは常々「ブラジル史上最大の資金供給オペレーション」と連呼してきた。実際にそうだ。一時的とはいえ、ボウサ・ファミリアを遥かに上回る資金を、貧困家庭を中心に注入している。 これが日本なら大半が銀行口座を持っているから、給付金申請時にそれを登録して、そこに振り込んでもらえばいい。貨幣流通量を大幅に増やす必要はない。 だがブラジルの場合、緊急支援金支給に当り、連邦貯蓄銀行は受給者にネット口座を開設させ、そこに一時的に支給した。このネット口座のお金はネット支払いには利用できるが、現金引き出しは不可という制限をかけられていた。 造幣が間に合った頃に、ようやく引き出しても良いと許可するという苦肉の策だった。 今回の200レアル札に発行は、今までの緊急増刷にプラスして行われる。つまり、さらに900億レアルも紙幣流通量が増えるということだ。 UOLサイト7月29日付ジョゼ・パウロ・クーパー氏のコラム(https://economia.uol.com.br/colunas/jose-paulo-kupfer/2020/07/29/nova-cedula-de-r-200-lancada-pelo-bc-ainda-precisa-ser-mais-bem-explicada.htm)によれば、中銀幹部の説明では今年中に3010億レアルに達するという。だが、単純計算すれば、2770億レアル+900億レアル=3670億レアルとなり、最終的にはもっと多くなりそうだ。 緊急支援金が延長になり、3回に分けて1200レアルを支給することになったことも、大きく関係するだろう。 3月中頃、一時的にトイレットペーパーなどの買い占めが起き、景気悪化で銀行倒産などの噂が飛び交った時期もあった。民衆心理を安定させるには、「お金はある」ということを見せるしかない。 民心安定のために、とにかく「刷って刷って刷りまくれ!」という状態になったのかもしれない。