岐阜で救急車全焼事故、運転の隊員は「仮眠できていなかった」 「地域事情」で過酷勤務に拍車
20時間余りの連続勤務、最後は4時間ほども運転
この隊員が運転する救急車は、患者宅に向かい、下呂温泉病院に搬送した。しかし、病院で対応できないほどの重症だったため、医師らが同乗して手当てしながら、約50キロ離れた高山赤十字病院に向かった。 患者の転院搬送後は、一般走行していて、下呂市内に戻ったところで事故を起こした。隊員は、仮眠もほぼできずに20時間余りの連続勤務をこなし、最後は、4時間ほども往復約100キロの道を運転していた計算だ。 「この隊員を含めて、救急当番がこの日は3人いました。他に隊員はいますが、レスキュー隊、電話受付の通信勤務と当番が決まっています。基本は変わらず、仮眠のときに救急出動があれば、3人とも出て行きますので、寝られなくなります」 ただ、通常の出動なら、近いとすぐ帰って来られるため、1時間ぐらいで終わるという。しかし、今回は、隣の高山市まで転院搬送があったため、4時間ほども戻って来られなかった。 「隊員同士で運転を交代するかどうかは、ケースバイケースです。今回は、重症患者でしたので、他の隊員2人は応急手当てをしており、ヘトヘトの状態でした。2人も、運転した隊員と同じ時間働いています。条件は同じですので、帰り道に交代するかは、隊長の判断などで決めています」 最近は、慢性的な人手不足に加え、転院搬送が増え、隊員の負担が増しているという。 市消防本部の23年の消防統計によると、救急出動は増え続けて最多となり、1日平均5回ほどになった。そのうち転院搬送が約14%を占めている。
受け入れ先の地元病院「医師不足は深刻な問題です」
「転院搬送で高山市や岐阜市に行くことが増えて、出動時間が長くなっています。1時間では、なかなか帰れないことも多いです。高齢者が増えたことのほか、医師不足もあると思います。下呂温泉病院で受け入れできないことが増え、他の受け入れ先について協議しているところです」 今回の全焼事故で、市内で5台あった救急車が4台に減ったことも、今後痛手になる。装備品などが高くて、1台数千万円ぐらいすることもあるという。年末年始は出動が増えるが、すぐに買える見通しも立っておらず、近隣の自治体でも救急車を貸し出す余裕がないのではないかという。 風邪などで救急車をタクシー代わりに使う出動も、全国的な傾向になっていて、市内でも見られるという。しかし、救急利用の有料化については、まだ検討していないとしている。 医師不足について、県立下呂温泉病院の事務局長は12月11日、取材に対し、「深刻な問題になっています」と認め、次のように現状を説明した。 「以前は、脳外科医がいましたが、5年前から不在になっています。心疾患についても、対応できる医師は限られています。主に、岐阜大学に医師の派遣をお願いしており、救急上の違反がないように何とかやっていますが、派遣医師の数も減ってきています。うちのような2次救急で対応できない重症患者については、高度医療設備がある3次救急の高山赤十字病院や美濃加茂市内の中部国際医療センターにお願いしていますが、車で1時間はかかってしまいます」 (J-CASTニュース編集部 野口博之)