2020年最も読まれた記事
さて、年内最終号は恒例の今年最も読まれた記事。ひとまずトップ5を並べてみよう。 1. トヨタの大人気ない新兵器 ヤリスクロス 2. MX-30にはだまされるな 3. GRヤリス 一番速いヤツと一番遅いヤツ 4. 新型ハリアーはトヨタの新たな到達点 5. 強いトヨタと厳しい日産 【写真】最も読まれた記事の写真 という具合で、2位を除けば全部トヨタ絡みである。前代未聞のコロナ禍に見舞われた2020年は、自動車販売が壊滅的打撃を受けても全くおかしくない一年だったが、そうしたタイミングで、トヨタが10年以上をかけて進めてきたTNGA改革が花開き、自動車販売全体の落ち込みを救った年だったともいえる。もちろんそれが全部トヨタのおかげというわけではないけれど、こういうタイミングで、ライズ、ヤリス、ヤリスクロス、RAV4、ハリアーといったクルマが、消費を強く喚起したことはやはり印象深い。
トヨタの20年
トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)は、実は単なるプラットフォーム群の名称ではない。トヨタという企業全体の強靭(きょうじん)化を図る事業改革の全てを含む概念である。 そのきっかけは2008年に全世界を襲った未曾有の経済危機、リーマンショックであった。リーマンショックの直前の07年度決算で、空前の2兆2700億円の利益を計上したトヨタが、翌08年度決算では一転4600億円の赤字に沈んだのだ。 なぜそんなことになったか? 実は、1999年には520万台という今のホンダと同等の規模だったトヨタは、07年までに930万台へと躍進した。目の前で売れていくクルマを生産することにトヨタは躍起になった。結果として、トヨタ生産方式の掟(おきて)を破って、ロットをまとめて大量生産するとか、スポット溶接の数を削って、工程を減らすなどの禁を犯した。 そして、いざリーマンショックでクルマが売れなくなってみると、生産のフレキシビリティを失って、フル稼働でないとコストがべらぼうに掛かる生産設備や、そもそもクルマの質を落として量産ばかりを考えた結果、ユーザーの信頼を失うという負の遺産が残った。余談だが、それは今振り返るとトヨタが1000万台メーカーになるためには必要な無理だったかもしれないが、ブランドが受けた傷もまた大きかったのである。 それにトヨタは正面から向き合った。そこからビジネスを強靱化する取り組みが始まった。製品に関していえば、基礎シャシーの開発と車両の開発を2段階に分け、ちょうどOSとアプリのような関係に置き直した。もちろん基礎シャシーは、設計前にそれをバリエーション化するための要素を全て織り込む。 それによって、基礎シャシーを車両ごとにカスタマイズするのを止めた。というよりそれこそが目的の1つだったといえる。車種ごとに要求が変わる部分をカスタマイズしようとすると、手間とお金が意外にかかる。結局トータルでみた場合、専用シャシーとさして変わらないということが起きる。それはシャシーを部品と見なして共用しようとするから起きることであり、あらかじめシャシーに求められる変化幅を持たせることで、カバーレンジを広げたのである。 つまりTNGA以前のシャシー流用は、コストダウンのために部品を流用しようと考えていたにもかかわらず、カスタマイズで意外に高く付いた。それに対しあらかじめ「固定」する部分と「変動」する部分を分けて基礎シャシーを作るコモンアーキテクチャー方式によって、ローコストかつ高性能なものができるようになった。 コストダウンの手段に過ぎなかった部品流用が、いつのまにか目的化しておかしなことになっていた点を反省したところからスタートし、本来製品の両輪たる「ローコスト」かつ「良品」、つまり「良品廉価」のために「もっといいクルマ」というテーマを加えて再定義し、どこを共通化してコストダウンするか、どこを専用設計にして商品価値を高めるかについて徹底的に突き詰めた成果である。 後になってみれば、失敗の理由は割と簡単ということはよくある。いつの間にか「いいクルマ」を置き去りに、コスト=生産効率への比重が上がりすぎていたのである。そこへの猛烈な反省が形になり始めたのが2015年前後、以後5年間でTNGAはトヨタの商品群へ大きく広がり、それがたまたまコロナの時期に一斉に花開いたのである。 そうした高レベルの戦いにおいて、今回読まれた記事の中で、1位になったヤリスクロスは、製品としても飛び抜けている。とにかく穴が無い。ベースになったヤリスとの比較においても、明らかにトータルバランスが優れていたのだ。 逆にいえば、ヤリスクロスが控えていたからこそ、ヤリスを「運動性能と燃費に特化させる」ことができ、その対極としてヤリスクロスは、室内空間もラゲッジスペースも、操縦性も燃費も、全てを諦めずに高次元でバランスさせられたともいえる。そこには、こういう補完関係にある複数車種を1人のチーフエンジニアに任せるというトヨタの新しい取り組みもあったと思う。頭領が2人いれば手柄争いになるが、1人なら、冷静にそれぞれのポジショニングに商品を割り振れる。ヤリスとヤリスクロスだけでなく、ハリアーとRAV4とハイランダー(北米向け3列モデル)もまた1人のチーフエンジニアに任された。