上級SUVで存在感狙う…マツダが「CX-80」今秋投入、真価問われる“末っ子”
マツダは2024年秋、上級スポーツ多目的車(SUV)「ラージ商品群」第4弾として3列シート「CX―80」を、日本や欧州などで発売する。上級志向の顧客を狙ったクルマづくりに挑み、高付加価値を訴求するラージ商品群。主力市場の北米で人気が上々な反面、国内では品質への不満やリコール(無料の回収・修理)が続発した。まもなく登場する“ラージ4兄弟”の末っ子には、マツダの屋台骨を支える戦略商品の真価が問われる。(広島・小林広幸) 【一覧表】マツダのラージ4車種の販売実績 ラージ商品群は後輪駆動でエンジン縦置きのプラットフォーム(車台)を共有し、車幅とシート列の異なる中大型SUV4車種。大排気量エンジンで環境負荷低減を狙い、プラグインハイブリッド車(PHV)を含む複数のパワートレーン(駆動装置)に対応した。 1台当たりの単価が高く、ジェフリー・エイチ・ガイトン取締役専務執行役員兼最高財務責任者(CFO)は「利益は平均的な車種に比べて2倍だ」と明かす。マツダはラージ商品群で利益を確保して経営の安定を図り、電気自動車(EV)をはじめとする次世代技術開発の原資に充て、持続可能なクルマ作りにつなげる戦略だ。 25年3月期のラージ4車種グローバル販売は、前期比ほぼ2倍の20万台を計画。24年春に北米で2列幅広「CX―70」を発売し、好調な手応えだ。毛籠勝弘社長は、5月の決算会見時に「今期(25年3月期)以降がラージ商品を育成、成長する本番だ」と、販売への意気込みを示した。 一方でラージ商品群に懸念されるのは品質問題だ。22年に第1弾で登場した2列「CX―60」では、一部の顧客が上級車に期待していた乗り心地や運転性能と、開発の意図との間に差が生じ、品質に対する不満となった。リコールも多発しており、25年3月期も24年5月、7月と2度公表している。 毛籠社長が「品質は経営の重要課題」と話すように、前期は問題の解決と“品質育成”を優先したことで「CX―80」の量産後ろ倒しや、3列幅広「CX―90」の一部生産停止を余儀なくされた。 マツダは問題の原因を、これまでにない技術や上質感に取り組んだため、開発や作り込み、品質検証プロセスに不十分な点があったと説明する。市場情報の収集には会員制交流サイト(SNS)も駆使し、迅速に問題を分析して改善を急いだ。「CX―60」と「CX―80」を担当する柴田浩平主査は「クルマとして、ずいぶんと成熟してきた」と述べ、品質の良化と、その成果として「CX―80」の完成度に自信を見せる。 25年3月期にマツダは国内販売目標で前期比12・5%増の18万台を掲げる。国内営業を担当する東堂一義執行役員は「チャレンジングな目標であることは間違いない。ただ国内のSUV市場は活況だ」と話す。25年3月期唯一の新車と見られる「CX―80」は達成のカギを握る。 また8月の決算会見時にガイトンCFOは「CX―60にも(改善を)反映させる」と言及。新車効果の一巡で販売が低調になってきた「CX―60」の早期改良を示唆した。生みの苦しみを克服し、膝元の国内市場でも、ようやくラージ商品の本格展開が望めそうだ。 激変する自動車業界で台数規模の小さなマツダが生き残るには、ユーザーから選ばれ続ける「ブランド価値」が必須だ。近年はSUVに比重を置き、運転性能や内燃機関など多くの技術資産の上に開発したラージ商品群で上級SUV市場に乗り出した。電動車への移行期を、どう乗り越えて国内外の市場で存在感を出していくか。すべてはラージ商品群の成功にかかっている。