空港でメディアアート。仕掛け人、MUTEK.JPと文化庁が関わって見えてきたこと
※この記事の取材・インタビュー・執筆は、2020年4月7日の緊急事態宣言発令前に行われました。緊急事態宣言と前後して、帰国者の受け入れなども制限されてきた中、やむなく掲載を保留してきましたが、さまざなアートやクリエイティブの「発表の場」が奪われ、テクノロジーによる打開策が求められている昨今の状況や、今後のモビリティの未来に対する懸念などをふまえ、いま掲載することにこそ意義があると考え、公開することといたしました。(ギズモード編集長 尾田和実) 【全画像をみる】空港でメディアアート。仕掛け人、MUTEK.JPと文化庁が関わって見えてきたこと 先日紹介した羽田空港の国際線ターミナルで行われたデジタルアート展「ETERNAL ~千秒の清寂」。 無数のレーザービームが異次元のような空間を作り出し国内外で話題となったこのデジタルアート展は、文化庁が主導して全国の空港で開催した「空港等におけるメディア芸術日本文化発信事業」の一環でした。 そのクリエイティブディレクションを務めたのは、国際的に名高い芸術文化活動を行う組織MUTEKの日本支部である「MUTEK.JP」。 文化庁 文化戦略官 所昌弘さんと、文化庁 参事官補佐の井野哲也さん、そしてMUTEK.JP 理事の竹川潤一さんに、“空港美術館”とでも呼ぶべき、この取り組みについて伺いました。
文化庁とMUTEK.JPがタッグを組んだ理由
──文化庁とMUTEK.JPは意外な繋がりという印象がありますが、もともと関係はあったのでしょうか? MUTEK.JP 理事 竹川潤一(以下、竹川):はじめてご一緒したのは2年前でした。第21回文化庁メディア芸術祭受賞作品展の開催に際して、文化庁さんから「オープニングでライブイベントをやりたい」という相談をいただいたんです。MUTEK.JPとしても、デジタルアートを扱ったライブアクションは専門分野でしたので「ぜひやりましょう」とお返事し、2週間くらいの特急で文化庁メディア芸術祭の歴代受賞アーティストやMUTEK.JP参加アーティストなどがライブパフォーマンスを行うイベントを作りました。 竹川:最初にお話をいただいたとき、僕らはMUTEK.JPとメディア芸術祭は全然違うものだと思っていたんです。言ってみればメディア芸術祭は歴史があるイベントでまさに“一軍”。それに対し、MUTEK.JPはそことは違う立ち位置を持っている全くの別物という感じですね。ですので、当初はうまく繋がれるかは半信半疑だったんです。でもイベントを作るにあたりメディア芸術祭がどんなものかを徹底的に調べたところ、メディア芸術の中に我々との共通点を多く見つけられ、実際にやってみたらしっかりフィットしたんです。印象的だったのは、イベント後にメディア芸術祭のお客さんとMUTEK.JPのお客さんが混じり合って、会話が生まれていたことでした。MUTEK.JPとメディア芸術祭がうまくミックスして化学反応ができた瞬間だと感じましたね。 文化庁 文化戦略官 所昌弘(以下、所):メディア芸術祭は平成9年度から始まったのですが、基本的には“作品展”であって、その年の応募作品の中から良い作品を集めて顕彰するという枠組みのイベントなんです。そこで歴史を積み重ねてきたわけですが、良くも悪くもそこだけの広がりでしかなかったという部分もありました。そんな状況の中、MUTEK.JPとコラボして関連事業を作っていくことによって、それぞれのお客さんが相互作用を生んで、メディア芸術にさらなる広がりが出るんじゃないかと考えています。 ──文化庁が今回、羽田空港でのデジタルアート展をMUTEK.JPに依頼したポイントは? 文化庁 参事官補佐 伊野哲也(以下、伊野):羽田空港は日本の各地域にも、世界にもつながる、日本の中心的な空港です。そのため“空港美術館”の取り組みについても、波及効果を含め羽田空港が一つの中心となっていくだろうと考えていました。そんな場所でメディアアートと地域の伝統を組み合わせた表現ができるのはMUTEK.JPだろうと考えてお願いすることになりました。