鉄板ネタのすべらない話ばかりする人は認知症のリスクが高まる?「脳がサボっている会話」に要注意
人生100年時代と言われています。中高年期以降、高齢になればなるほど気がかりなのが、認知症ではないでしょうか。高齢者がもっともなりたくない病気であり、親に一番なってほしくない病気でもあります。でも、脳の中で何が起きているかは外からは見えず、認知症になるかならないかは、誰にもわかりません。 しかし、外からは見えないはずのその人の脳は、「会話」を通して見ることができます。普段からこういう会話ができていたら、この程度の認知機能が保たれているはずだ、ということがこれまでの研究で明らかになっています。会話には脳の健康度合いが反映されるのです。本連載では、脳科学の知見や最新のテクノロジー、AIの技術を集結させて考案された「脳が長持ちする会話」のコツをお伝えします。 *本記事は『脳が長持ちする会話』(大武美保子、ウェッジ)の一部を抜粋したものです。
武勇伝は脳がサボっている話
次のような会話スタイルの人、身近にいないでしょうか。 配属されたばかりの新入社員に、武勇伝を聞かせる上司。 仲間うちに新しいメンバーが加わると、必ず自分の自慢話をひと通り披露する人。 仕事を引退しても、あるいは仕事とは無関係な集いの場でも、ずっと仕事にまつわる話を楽しそうにする人。 これらに共通しているのは、その話をしているとき、話し手は非常に心地よく、脳が安定状態にあるということです。なぜ心地よく安定状態にあるのかと言えば、話のテーマが話し手にとっての「鉄板ネタ」であることがほとんどだからでしょう。「鉄板ネタ」の多くは、「得意ネタ」であり、自分が何度でも話したいネタ、いわゆる自分的に「すべらない話」です。 そういう話を披露している最中、脳の中はいつもと同じ回路を信号が行き来する状態になっています。見聞きしたことを反復して話すことで、いわば安定軌道のような信号の通り道ができていくと考えられます。 話し慣れている上に、話していると心地よい、会話での「鉄板ネタ」は、エネルギーの谷のようなものを自然発生させます。そのエネルギーに巻き込まれて、話し手は谷へ落ちて行くのです。エネルギーの谷へと引き込まれるのですから、身を委ねたお任せ状態。 そのため、認知機能をあまり必要としません。これは、脳が少ないエネルギーで動く会話であり、脳がサボっている会話なのです。 非常に残念なのは、こうしたタイプのコミュニケーションが習慣づいていることを本人だけが気づけないことです。周囲は「また同じ話をしている」と呆れていても、本人は「聴いてくれている」と感じ、話すたびに満足感を得ます。そして、また同じ話を繰り返し、どんどん脳の機能がサビついていきます。