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「Shall we ダンス?」で描けなかった異世界 映画監督・周防正行が絶賛した一冊(レビュー)

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Book Bang

周防正行・評「『Shall we ダンス?』で描けなかった異世界」

学生時代に「競技ダンス部」に所属していた小説家、二宮敦人によるノンフィクション『紳士と淑女のコロシアム「競技ダンス」へようこそ』が刊行。本作について映画監督の周防正行さんが読みどころを解説する。  ***  僕の作品を全部観ているという編集者が「書評してほしい本がある」と連絡をくれたとき、こっちは書庫で断捨離に追われていた。壁をぶち抜いた広い空間につくりつけの巨大な書棚が三本。一か月後には立ち退かなければならないのに、なにせ助監督時代から集めてきた映画のための資料を詰め込んでいるので、らちがあかない。  気は急くものの、送ってもらったゲラも気になる。書評を引き受けた理由の一つは、そこで描かれている大学生たちの社交ダンス(技を競い、審査され、順位をつけられるので「競技ダンス」と呼ばれる)の世界にかつて興味を持ったことがあるからだ。学生服姿で激しく優雅に踊る大学生たちの姿は強烈だった。残念ながら『Shall we ダンス?』には入れられなかったが、二宮敦人さんはそこに対象を絞り、奇妙でとんでもなく熱い「体育会競技ダンス部」という異世界を音声やにおいとともに描き切っている。  僕は映画で異世界を描くとき、序盤に異世界の掟へのツッコミを盛り込む。本作も同じだ。入部すると即座に問答無用で「亀仙人」、「種馬」、「鯖味噌」といった通り名をつけられるとか、試合中にどんなに激しく踊っても髪を揺らしてはいけないという決まりがあるとか、ダンスでもコンビを組み私生活でも恋人になるふたりのことを「カップルカップル」と呼ぶとか。  絶対嫌だと思っていた世界に不純な動機でうっかり足を踏み入れ、そのまま深みにはまっていくのも僕が異世界譚を描くときの手だ。お坊さんの世界が舞台の『ファンシイダンス』も、大学相撲がモチーフの『シコふんじゃった。』もそう。本作を読み進めていくと、どうやら二宮敦人さんの場合、実体験がそうだったらしい(釈明希望)。  自称・運動音痴で中学、高校と美術部だった二宮さんは大学で先輩(女性ふたり)の勧誘を受ける。「美術部出身者が有利」「初心者でも活躍できる」とのことばにふらふらと仮入部。すると、そこに待っていたのは、〈手を繋ぐのは当たり前。両手を絡ませたり、場合によっては腰をがっつり掴んだり、半身がぴったり重なったり、太ももと太ももが擦れあったりする。その上、男女比がはっきり偏っていて、男の三倍は女性がいる。男というだけでちやほやされるのだ!〉という世界だった。だが、二宮さんは〈なんという不純な部活! と思いきや、煩悩は意外にあっさり消えてしまう〉と書く。その理由こそが本作の醍醐味。どうかご自身で読んで味わってください。

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