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大人のコメディ映画『一度も撃ってません』 石橋蓮司のおかしみ満載! 阪本順治監督に聞いた撮影秘話

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『どついたるねん』(89)を皮切りに、『顔』(00)や『闇の子供たち』(08)、『団地』(16)、『半世界』(19)など多彩なジャンルの作品を世に送り出してきた阪本順治監督が「次は大人の遊び心をやりたい、主役はこの人だ」と白羽の矢を立てたのは、名バイプレイヤーの石橋蓮司。それなら私も、と世代を超えた役者が出演する最新作『一度も撃ってません』の撮影秘話をうかがった。 ■きっかけは原田芳雄が紡いだ縁 石橋蓮司を主役にした映画を作ろうという企画が生まれたのは『大鹿村騒動記』(11)で主演を務めた亡き原田芳雄の家だった。その場には、石橋本人のほかに、桃井かおりや岸部一徳、佐藤浩市、大楠道代、江口洋介といったのちの主要キャストが集まっており、ああでもないこうでもないと大変盛り上がった。その噂を聞きつけたのが柄本 明・柄本 佑親子、妻夫木 聡や豊川悦司、小野武彦などそうそうたる面々。「ぜひおれたちも!」と参加し、石橋蓮司、18年ぶりの主演映画が完成した。 ■「今作は、まさに石橋蓮司まつり。皆でみこしを担いでカッコよさを引き出した」 石橋蓮司の役どころは、なんと、密かにターゲットをとらえるヒットマン、ではなく、実は売れないハードボイルド作家、市川進。一度も拳銃を撃ったことがなく、殺人現場にでくわしたことがないにもかかわらず、事件の詳細を具体的に描き切るため、ヒットマンと疑われ、別のヒットマンから命を狙わるというハードボイルドコメディだ。脚本は丸山昇一。『傷だらけの天使』(97)、『行きずりの街』(2010)などで阪本監督と組んできた丸山の発案で、話は進んでいった。 【写真】4人の手練れが生み出す、演技合戦が見事。写真は映画『一度も撃ってません』より 主役に、と熱望するほどほれ込んだ石橋蓮司とは、監督にとってどんな存在なのだろう。「僕は、バイプレイヤーとしての活躍を長年見てきましたが、あんなもんじゃないんですよ、蓮司さんのおかしみは。今回は、まさに石橋蓮司まつり。気心の知れた仲間に寄ってたかって真剣にみこしを担いでもらったので、蓮司さんのスタイリッシュでかっこいい部分と、なんともいえないおかしみが撮れたと思っています」と監督。 そのみこしを担いだ筆頭は、訳ありの元ヤメ検でさまざまな情報をもっている石田役の岸部一徳、元ミュージカル女優で飲み仲間・ひかる役の桃井かおり、毎朝シジミ汁を夫に作るのが日課の妻・弥生役の大楠道代という百戦錬磨の役者たち。 特に、行きつけのバー「Y」で桃井と岸部、石橋が酔っ払いながらしゃべるシーンは監督のお気に入りで「今作一番のアドリブ?!合戦を観ることができます。当然決められたセリフはあるんですが、そこにさまざまなペーソスが加わっていく。旧知の仲だからこそ、間の取り方や役割、動きを全部わかったうえで補い合っている。さらに言えば、役者という仕事を通して、架空の世界で自由に遊び、楽しむことをやり続けてきた人たちです。だからアドリブのように見えて、そうじゃない独特の高揚感がある。重要だと思うからこそ、そのシーンを面白くしようとする真剣なかましあい、騙しあい合戦です。でも、撮る側からすれば、さながら猛獣が集まる動物園のようでした。でも、一瞬たりとも飽きさせない。その安心感があるからこそ、ワンカットで撮っています」と大人の真剣勝負を振り返った。 また、夫とひかるの浮気を疑い、バー「Y」まで乗り込んできた弥生がひかると女の戦いの後ですっかり打ち解け親友のようになっていく場面は、この二人でないと生み出せない空気感がある。泣き上戸の大楠に、桃井がアドリブを入れてどんどん話が展開していく女同士の見せ場もあり「それを目の前で見ていた元殺し屋でバーのマスター、ポパイ役の新崎人生君は、目の前で起こる丁々発止に『僕、ここにいたくないです』と、熟年二人のバトルに怯えていましたよと笑った。 ■妻夫木 聡や豊川悦司も役作りに没頭。「すべては蓮司さんとの共演のため」 なんちゃってヒットマン市川を取り巻くのは世代を超えたさまざまなタイプの役者たちだ。「みんな、石橋蓮司と共演することの喜びと、得るものがあるんじゃないかという期待感で集ってましたね。鉄工所勤務の今西を演じた妻夫木君は溶接の練習をしたり、劇中で使う小道具を一月前から自宅へ持ち帰って、手さばきを練習したり。中国人役の豊川悦司君は、香港出身の奥さんを持つ撮影技師さんに頼んで、彼女の声はもちろん、中国在住の親族一同にまで同じセリフを吹き込んでもらい、そのテープをもとに練習をしてきたんです。徹底的に体に叩き込んできた。石橋蓮司という稀有な役者と共演するということは、それを当たり前のようにやらないと、という役者さんたちの真摯な気持ちを肌で感じましたね」と振り返る。 ■昭和と令和の戦い!? 佐藤浩市と寛 一 郎の親子共演も必見! 今作では若手と手練れ役者との対比も見事で、佐藤浩市とその息子・寛 一 郎の親子共演は必見だ。佐藤は市川の担当編集者である児玉、寛 一 郎はそれを受け継ぐ新たな担当者、五木という役どころ。「寛 一 郎が生まれたときから知っている」という監督が見た、親子共演の裏側は? 「今回の出演は、浩市君からの提案でした。お父さんの三國連太郎さんは『大鹿村騒動記』に出ていただいたので、寛 一 郎が出たら親子3代を演出したことになるぞ、と僕にね」と共演のきっかけを話す。同世代と演じることが圧倒的に多いから、上の世代と芝居を交わすということで覚えることがたくさんあるという思いもあったようだという。しかし現場では「寛 一 郎は堂々としていて、浩市君のほうが緊張してましたね。数回NGも出すし」。 一方、石橋は「『俺の役をどんどんつぶしてくれ。お前がつぶすことで俺の役は成立するんだから』と寛 一 郎に言ってましたね。五木という役は、上の世代を理解しないで、あざ笑う役。クセのある役者が自由に演じるなかへ現実を持ち込みひっぱたく役を担ってくれました」。 そんな、世代を超えた現場を振り返ると「親子共演や若い役者の経験を積む場所としてこの作品選んでくれたことはうれしかったですし、浩市君と寛 一 郎の背中はよく似ていました。リハーサルを積み上げていくタイプの現場ではなく、その瞬間で彼らが見せるものを僕が切り取っていく、それを見て、きっと感じるものもあったと思います。大人の遊び場に加われたことを喜んでくれているのでは」と振り返った。 ■「異端者のような4人が、もう一花咲かせたいと願う。悪あがきにみえるかもしれないけど、そこがかっこいい」 監督のもう一つのお気に入りは最後に4人が並んで歩くシーン。ここに監督が思う、十分年齢を重ねてきた大人へのさらなるエールが込められている。「山高帽にトレンチコートといういで立ちの主人公とはいえ、僕は、ハードボイルドを狙ったわけじゃないんです。ヒットマンと間違えられた売れない小説家を中心とした異端者のような人たちが、人生の最後にもう一花咲かせたいと願い、究極の選択をしながら青春時代のように踏ん張っていく。その生きる上での自尊心のあり方を見せたかったんです。それを、かっこいいと思うか、悪あがきと呼ぶかは、人それぞれですが、やっぱりあのラストシーンを見て、あんな大人の遊び方、うらやましいな、と思ってもらえたらうれしいです」。 ほか、天真爛漫な看護師役に井上真央、詐欺を働く実業家・守山役に江口洋介など、登場人物すべてから目が離せない今作。ジャジーなトランペットの音色に包まれながら、酸いも甘いもかみ分けた男と女が織りなす、愛と友情にあふれた大人のコメディを、スクリーンで楽しんで。 映画『一度も撃ってません』は、7月3日(金)より全国ロードショー。 取材・文=田村のりこ

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