アギーレの可変システムは機能するか ── 長谷部のポジショニングを注視せよ
つまり「4‐3‐3」から「4‐2‐3‐1」へのチェンジもまた「可変システム」となる。前出の水沼氏も「ある意味では、存在するすべてのシステムが可変と言える」とこう続ける。 「たとえば『4‐2‐3‐1』のトップ下を前線に上げれば『4‐4‐2』になる。実際に試合が始まれば相手もいるし、上手く機能していない選手がいると判断すれば、指示されていたスタートポジションから当然変えるべきだろう。システムというものは基本的に攻めやすさ、守りやすさに則っている必要がある。アギーレ監督が採用しているシステムも同様で、ビルドアップのときに『3‐4‐3』となるのも、相手のシステムやプレッシャーのかけ方によって変わってくる。守備のときには『4‐1‐4‐1』に加えて、ボランチを3枚にする『4‐3‐2‐1』や状況によっては『4‐5‐1』にもなることができる。もっとも、システムはサッカーを見る上での目安にはなるけど、必要以上に数字にとらわれることもないと思う」 オーストラリア戦で「4‐2‐3‐1システム」にスイッチしたように、アギーレ監督は「4‐3‐3」をベースとしながらも、状況によっては柔軟に対処する姿勢を打ち出している。可変システムのキーマンとなる長谷部も、アギーレ監督の戦術にこう言及している。 「はっきりしているのは、勝負に徹する監督ということ。『3‐4‐3』は日本人にはあまり馴染みがないかもしれないけど、世界ではスタンダードになってきている。いろいろな形をもっておく意味でトライすることはいいことだと思います」 アルベルト・ザッケローニ前監督は「4‐2‐3‐1システム」をベースに、日本が主導権を握り続けるサッカーを追い求め続けた。ワールドカップ・ブラジル大会までの過程で、代名詞でもある「3‐4‐3システム」に幾度となくトライしたが、選手の消化不良もあって最終的には断念している。 翻ってメキシコ代表監督としてワールドカップを2度経験している百戦錬磨のアギーレ監督は、相手の出方によって押すときもあれば引くときもある戦い方を構築しようとしている。その意味では「4‐3‐3」が、「3‐4‐3」とも「4‐1‐4‐1」とも異なるシステムに変貌することも考えられるわけだ。 ヨーロッパではドイツの強豪バイエルン・ミュンヘンが、指揮官ペップ・グァルディオラのカリスマ性の下で、今シーズンから導入した3バックを含めて実に5通りのシステムをときには試合中に使い分け、ブンデスリーガとUEFAチャンピオンズリーグで圧倒的な力の差を示している。 日本ではサンフレッチェ広島が「3‐6‐1」から攻撃時に「4‐1‐5」、守備時には「5‐4‐1」にチェンジする可変システムを編み出して2012年シーズンからJ1を連覇。浦和レッズも同じ戦い方を採用し、最後に失速したものの、昨シーズンは8年ぶりの優勝まであと一歩のところまで迫った。 バイエルンとも、そしてサンフレッチェやレッズとも異なるアギーレジャパンの可変システムはいまだ発展途上。連覇を期待されるアジアカップでどのような変貌を遂げていくのか。長谷部の位置取りに注目しながら目を凝らしてシステムをチェックしてみるのも、また一興かもしれない。 (文責・藤江直人/スポーツライター)