安ウマなテイクアウトから味わいを激変させるグラスまで──ワインショップ・エノテカと考えた2020年、ワインの○と×
ワインを飲んで、いい酔いを覚えるにはうまいツマミがなければならない、という信念のもと、飲食担当エディター岩田桂視がワインと料理のマリアージュを探求する本誌連載の番外編。「ワインショップ・エノテカ」の敏腕バイヤー3名+広報1名と一緒に「2020年のワイン、○と×」について話しあった。 【写真を見る】2020年、オススメのワインとは?
今日も飲んでます
岩田桂視(以下、岩田) みなさん、こんにちは。『GQ JAPAN』の岩田です。連載「ワインにあうツマミを探せ!」をご覧いただき、ありがとうございます。さて、こんかいは「2020年のワイン、○と×」をテーマに「ワインショップ・エノテカ」のバイヤー陣に語ってもらおうと思います。ゑのてかず……じゃなかった、こほん。フランス、イタリアを担当しているバイヤー・石田敦子さんをご紹介いたします! 石田敦子(以下、石田) わたしにとっての2020年のワインの○は、家飲みでグラスが大活躍したことです。ザルトとセンサリー、どちらもフル活用して、さらに一脚も割らなかった! ×は海外出張ができなかったこと。わたしにとって出張はエネルギーチャージです。ボルドーにいけば仔羊を食べ、ブルゴーニュではグルヌイユ(かえる)にエスカルゴ、ハトもいい……。ピエモンテでは嗚呼、仔牛、そして白トリュフ……。それが恋しすぎて恋しすぎて。 岩田 ぴえん……、わかります。では、次は、やはりバイヤーの笠原亮さん、どうぞ! 笠原亮(以下、笠原) ぼくも同じように家飲みの回数が増えました。料理にも没頭できたので、それが楽しかったのが○ですね。×は生産者のもとへ行けなかったことです。ビデオチャットやメール、電話を駆使しても情報量が少ないんですよね。ワインにまつわる新しい情報は、やっぱりフェイス・トゥ・フェイスにかぎります。 岩田 笠原さんは以前、レストランの厨房で働いていたほどの料理上手で、ルイ・ロデレールなどをご担当されています。なにを作っていたか気になりますね。それについては、のちほどうかがいたいとおもいます。では、つぎはニューワールド全般を扱うバイヤーの岡本真美さーん、おねがいします? 岡本真美(以下、岡本) はい、岡本にとっての○はあらためてソムリエのよさを知ったことです。ある日、感染症対策をしながら、ひさびさにレストランにいきました。そのときにソムリエのかたにローソクでオリを確認しながらデキャンタージュしてもらったんです。久々のサービスに感動しましたね。×は通販でついつい買いすぎちゃう問題が発生したこと。アルコール摂取持続化給付金を支給していただきたかった……。 岩田 その給付金ならぼくもいただきたいですね。それから、アルコールは無税になりませんかね。時限立法でいいので! 話がそれました。こんかいメンバーを集めてくれた広報の佐野昭子さんにもお尋ねします。 佐野昭子(以下、佐野) わたしはレストランのテイクアウトにとてもはまりました。その料理とワインをペアリングするのが楽しくて。ワインと食べ物に惜しげもなくお金をつかいました。×は生産者の方々の来日が減ってしまったことで、それが残念でした。バイヤーの人たちはよくビデオチャットアプリで打ち合わせをしていましたが、イベントはできませんでしたから、わたしは生産者の方々とお話できませんでした。石田さんはプリムールの打ち合わせで生産者とバーチャル・ドライブツアーしていましたよね? 石田 ええ、そうなんです。シャトー・ランシュ・バージュのジャン・シャルル・カーズさんと打ち合わせをしたとき、かれはクルマに乗っていたのでスマホを助手席において話してくれたんですよ。そういうわけで、かれのスマホに映る車窓からの景色を見ながら会話していて、あ、あそこだ、なんて見覚えある場所を見ることもできたりして、たのしかったです。 岩田 まとめると、みなさん、例年以上に飲んだという理解であっていますか? 他の全員 笑(各自うなずきながら)。 岩田 この連載のテーマはツマミとワインのマリアージュの新しい発見なのですが、2020年、ワインに合わせるツマミとしては、どんな新しいチャレンジをしましたか? なにしろ、あの魯山人も「あてのない旅は最高だが、アテのない酒は最低である」といいましたからね(ウソ。ホントは不肖・岩田の、その場の思いつきです)。 石田 笠原さんはよく家でお料理されてましたよね? 笠原 はい、ベスト3から紹介します。ぼくはとんかつが好きですが、家で揚げ物をつくると妻に怒られるので、ずっと避けていました。しかし、ある日、スーパーで購入したとんかつを、再調理することをおもいついたんです。パルミジャーノを削ってとんかつにまぶし、それをごく少量のオリーブオイルとバターで揚げなおすと本格的な味になることがわかりました。いわばカツレツですね。フランチャコルタの「ベラヴィスタ・アルマ・グランキュヴェ・ブリュット」をそれにあわせるのが最高ですね。ベスト2は三輪山本の熟成素麺を使ったウニそうめんです。これにはルイ・ロデレールの「ブリュット・プルミエ」がベスト・マッチです。1位は奈良のもりのしいたけ農園のしいたけ栽培キット。栽培の途中、間引いて肉厚に仕上げるのがポイントです。グリルで焼き、塩だけ振るのがうまいです。 岩田 わー、すごいなぁ。佐野さんはテイクアウト、どこが好きでした? 佐野 今年は、唐揚げが流行しましたよね。この料理のよさはどこで買ってもおいしさの平均値が高く、はずれがないことです。小伝馬町に今年オープンしたおしゃれフードコート、COMMISARRY NIHONBASHI内にある北出食堂の唐揚げがサクサク&ジューシーでマイベストです。ロデレール・エステートの「カルテット・アンダーソン・ヴァレー・ブリュット」など、スパークリングワインと合わせるのが好きですね。 カリフォルニア産「カルテット・アンダーソン・ヴァレー ブリュット」はディナーのお供から手土産まで、迷ったらこれで乗り切れる。ルイ・ロデレールが手掛けるゆえ、きめ細かな泡や華やかな色合い、そして美しく伸びやかな酸が感じられる。3900円(税込)というプライスも素敵。 岡本 私が愛用している食材通販サイト「ハイ食材室」でスペイン・ガリシア産のムール貝を見つけたので、それをワイン蒸しにしてトーレスの「サングレ・デ・トロ・カヴァ・ブリュット」に合わせたり、ステーキを事前に低温調理してモンテスの「パープル・エンジェル」や日本酒に合わせたりするのにはまりました。うちは夫が洋食調理担当で、私は日本料理担当です。それから日本酒もさんざん飲んだなぁ。備忘録用にインスタグラムで日本酒用のアカウントも作りました。 石田 石田家のヘビロテは餃子です。タネはプロセッサーで粗みじんにします。肉もひき肉ではなく、豚バラブロックを買って挽いています。素材感がでるようにすこし粗く挽くのがポイントです。パリゴ&リシャールの「オリジーヌ クレマン・ド・ブルゴーニュ」とかカジュアルな泡があいますね。バリエーションが簡単にできるのもポイントで、わたしは包むときにエビをいれたり、春雨をいれたりしています。あとはマグロやカツオのヅケかな。ピエモンテでタルタルを食べるのが好きなのに、ことしはひと切れも食べられなかったので……、そのフラストレーションをヅケにぶつけました(笑)。ネッビオーロ、サンジョヴェーゼに合います。岩田さんは連載で掲載したもの以外ではどんな料理に挑戦しましたか? 岩田 ぼくは、調味料作りに挑戦した年でしたね。例えばそばが食べたいので生のかえしを作ったりしました。かえしは便利ですよ~。煮物、すき焼き、おでん、冷奴、味付けたまごと大活躍します。レシピは以下です。 【本かえしの作り方】 しょう油 1リットル 砂糖 160g みりん 200cc ・みりんに砂糖をいれ、木べらでかき混ぜて溶かす。 ・十分に溶けたら、しょう油を投入しかき混ぜる。 ・瓶にうつし、キッチンペーパーで瓶口を覆い、2週間寝かせる。 岩田 あとはぬか漬けにチャレンジしました。夏野菜にはじまり、豆腐にたらこなど。今はサバを漬けています(へしこ漬け)。かえしがあると料理のバリエーションが広がりますし、ぬか漬けは、トルマレスカ・シャルドネなど華やかな白ワインともマッチします。 佐野 へー。栽培キットやマグロのヅケ、生かえしなど2020年はマニアックなツマミに挑戦したひとが多いんですね。わたしもテイクアウトだけでなく、料理しながら韓国ドラマにのめり込もうかしら……。 岩田 はい、ネットフリックス漬けもいいんじゃないでしょうか。ぼくは「クイーンズ・ギャンビット」一択です。ハマりすぎて、もう3回ぐらい観てます。ネッビオーロにめちゃめちゃ合いますよ。さぁ、これから年末ですね。みなさん、おうち忘年会で飲みすぎないように気をつけましょう! PROFILE 石田敦子 商品部・バイヤー 仕事のためとばかりにプライベートでも毎日飲んでおり、年間1000種類くらいは飲んでいる熱烈なワインラヴァー。とはいえ、飲んで記憶を失くしたことがないのが自慢! 笠原亮 商品部・バイヤー 「ワインのある生活の喜びや楽しさを少しでも多くのお客様に提案したい!」との想いで、生産者とお客様の架け橋になるべく日々奮闘中。 岡本真美 商品部・バイヤー ニューワールドとドイツのワイナリーを担当。日本酒も大好きで、様々なペアリングを自宅で模索しています。 佐野昭子 広報担当 テイクアウトグルメ&ワインのペアリングと、ネットフリックスのドラマ鑑賞にハマった2020年だった。パリが遠い今、最近は「エミリー、パリへ行く」がワインのお供。
まとめ・岩田桂視(GQ)