尚玄、主人公と人生が重なった“義足のボクサー”役。台本なし、独特の撮影現場は「役として瞬間瞬間を生きるだけ」
長身に日本人離れした端正なルックスでモデルとして活躍後、2005年に主演映画『ハブと拳骨』(中井庸友監督)で本格的に俳優デビューを飾った尚玄さん。 しかし、「君の見た目では、日本では役がない」と言われ、ニューヨークに渡って演技の勉強をし、国内外で多くの映画に出演。現在、自ら企画して主演し、8年の歳月をかけて完成させた映画『義足のボクサー GENSAN PUNCH』(ブリランテ・メンドーサ監督)が公開中。
主人公と自分の人生がオーバーラップして
映画『義足のボクサー GENSAN PUNCH』は、フィリピンで活躍した実在の義足のボクサー・土山直純さんをモデルにした映画。 幼いときに右膝から下を切断した土山さんはプロボクサーを目指し、アマチュア時代は優秀な結果を残すが、義足での試合は安全性に問題があるということで日本でのプロライセンス取得が許されなかったため、フィリピンに渡ってプロボクサーを目指す。 企画を立ち上げた尚玄さんは、『ハブと拳骨』からタッグを組んでいる山下貴裕さんとともにプロデューサーとしてカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞したフィリピンの巨匠ブリランテ・メンドーサ監督に直談判して引き受けてもらうことに。 さらに主演もつとめ、厳しいトレーニングを続けて10kg減量して体脂肪1ケタのボクサー体型に肉体改造し、土山さんをモデルにした主人公・津山尚生役を演じた。 「なお(土山直純さん)と初めて会ったのは東京です。僕がLAから帰ってきたくらいのときだったと思いますが、そのあとちょこちょこ顔を合わせるようになって、だんだんお互い親交を深めていきました。 義足だから日本ではプロライセンスが認められず、フィリピンで挑戦したということを聞いて、『日本では役がない』と言われてニューヨークに渡った自分と被(かぶ)さるところがあるなあって。 それで、8年くらい前に二人で飲んでいるときに、『いつか映画化したいんだけど』って切り出したら、快諾してくれたという流れです」 -ご自身の役を尚玄さんがということは、土山さんも喜ばれたのでは?- 「以前もいろいろ話があったみたいですけど、やっぱりうれしい反面、半信半疑なところもちょっとあったみたいですね」 -アメリカなどと違って、日本で俳優さんがご自身で企画を立ち上げて映画にするというのは、かなり大変だったと思いますが- 「そうですね。時間がかかってしまいました。でも、最初に山下(貴裕)さんに相談して、一緒にやってくれることになって、本当に二人三脚でやってきたんです。 今思うと、俳優の仕事が来ない時期もありましたけど、そのときにでも、どこかで自分がこのすばらしい企画を持っているということ自体が心の支えになっていたところもありますし、それに向けて突き進んできたところもありました」