銀行員が語る「失敗する経営者」 夢ばかり見て、足元が見えなかった人
新しい年になり、今年1年の目標を立てた方もいらっしゃるのではないでしょうか。目標や夢を持つのは素晴らしいことですが、それがかえって仇になる場合もあるようです。 私が銀行に入社してまだ間もない頃、先輩からの教訓に「前と上ばかり見ている人は、足元を見ないので転ぶ」というものがありました。これまで銀行員という仕事を通して、それこそ数え切れないくらいさまざまな人を見てきましたが、どうやらこれは本当のことのようです。今回は、そんな教訓めいたお話です。
銀行員が出会った「前と上しか見ていない人」
これは、地方の観光地に赴任していたときのお話です。古くからの温泉地で、周りは和風旅館ばかりだったその場所で、エスニック調のペンションを経営している方がいました。この方をAさんとしましょう。 Aさんは、学生時代に旅行した東南アジアが気に入り、気候が似ていると感じたその地にペンションを建てたそうです。 私が担当となり、挨拶のために初めてペンションを訪れた時のことでした。挨拶をして、お互いの自己紹介など会話が進みましたが、何となく違和感を覚えました。とはいえ、こちらも仕事で来ているので、なるべく気にしないよう相手の話に集中しましたが、その違和感は最後まで残ったままでした。
初対面で感じた違和感とは
その場を辞し、銀行の営業車でひと息ついた時に、やっと私はその違和感の正体に気が付きました。 Aさんは私と会話している時に、私の目を見て話されましたが、どこか「心ここにあらず」といった様子だったのです。この場で全てを悟ったわけではないのですが、何年も銀行員をやっていると、Aさんは目の前にいる私を見ながら、話を聞いていなかったということは直感としてわかります。 そしてこの違和感は、それから先のAさんとのやり取りで確信に変わっていきました。
「忙しい」と「忙しくしている」とは違う
Aさんは、とにかく「忙しくしている」人でした。 いいアンティーク家具があると言えば買いに行き、流行っているペンションがあると言えば見学と、自分のペンション運営は部下に丸投げで、年中国内を飛び回っていました。Aさんに用事があり会いたくても、事務所にいたためしはなく、連絡はいつも携帯電話でした。 そんなある日、携帯電話の向こうから「今、ロビーの絨毯を選びにバリ島にいます」と聞いたときはさすがに驚き、正直呆れてしまいました。なぜならこの時、新しい融資の手続き書類が必要で、翌日に会う約束をしていたのです。もちろん手続きは遅れ、私と銀行は予定の変更をしなければならなくなりました。 こうした積み重ねで、銀行のAさんに対する信用はどんどん低下していったのです。