広島スカウトが明かす無名・薮田2位指名の謎
薮田は、結局、再び4年で肩を痛め、他球団のスカウトがその真の姿を見ることなくドラフトを迎えることになる。松本スカウトは、母校だけあって、「もう怪我の心配はない」という情報をつかんでいた。だが、一方で、他球団の水面下の動きも耳に入っていた。チームの補強ポイントは先発投手で、1位には地元広島の広陵高出身の有原航平の指名が決まっていた。松本スカウトは、「よそは、外れ1位ではこないでしょうが、2位でいかないと取れないかもしれません」とスカウト会議で伝えたという。 薮田は、広島生まれで、小、中と広島で過ごした。地元出身選手を優先するというチーム方針もあり、松本スカウトの眼力を信じる形で、ドラフト2位指名を決めたのである。結果、外れ1位では、野間を指名。2位で隠し玉の薮田を単独指名した。 松本スカウトは、プロ入り後もファームで投げる薮田を見守ってきた。2軍の佐々岡真司コーチから、カットボールを教えられ幅が広がったという。そして2軍で8試合37回を投げ、4勝1敗、奪三振42、防御率1.70の堂々たる成績を残して1軍に昇格すると、大瀬良が中継ぎ転向したことで空いた先発の椅子を与えられ、巨人戦で衝撃の白星デビューを飾るのである。 「僕は150キロを超えるストレートがあれば巨人戦では1点も取られないだろうと思っていたんです。え?2点も取られたの?が正直が感想です(笑)。カットボールを佐々岡コーチから教えられ、すぐに持ち球に使える器用さがあるし、度胸も据わっています。あの球威だから、本来ならば、抑えに適性があるんですが、肩、肘に爆弾を抱えているので無理はできません。首脳陣もそこを考慮しているんだと思います。次の先発が楽しみですよ」と松本スカウト。 将来的にはチームのウイークポイントであるストッパーを薮田が埋めることになるのかもしれない。松田オーナーと母親の縁、そしてスカウトの執念と眼力……。アマチュア時代無名だった薮田の鮮烈プロデビューの裏には、こんなドラマが隠されていたのである。 (文責・駒沢悟/スポーツライター)