大きく潮目が変わった「いのちのとりで裁判」 “計算のプロ”出廷するも、生活保護減額の根拠示せず
今年に入って立て続けに原告側勝訴
西尾氏が名古屋高裁で証言してから約2週間後の3月29日。さいたま地裁が支給額の引き下げを取り消す判決を言い渡した。この結果、2014年から始まり、全国29地裁に広がったこの集団訴訟で判決が出た17件のうち、原告の主張通りに引き下げの取り消しが認められたのは8件にのぼる。特に今年に入ってからは、宮崎、青森、和歌山、さいたまの各地裁で立て続けに原告の訴えを認める判決が出ている。いずれも「生活扶助相当CPI」を用いた独自の計算方法が適切でないなど、厚労省の生活保護基準引き下げ決定までの過程に問題があったとしている。 国側は当初から「物価が下落したのだから、生活保護費がその分下がっても“健康で文化的な最低限度の生活”は維持される」と説明してきた。当時、西尾氏の上司であった、厚労省社会・援護局長の村木厚子氏も国会で同様の答弁をしていた。 しかし、物価の計算の不備が問題視されるようになると、国側は各地の訴訟で、「基準引き下げは生活保護世帯と一般世帯との均衡を図るためだった」と主張し始めた。基準引き下げの理由を、物価から一般世帯との比較へと急に変更しているのだ。国会答弁と明らかに矛盾する主張を始めたのは、2020年の名古屋地裁と同じく「国民感情や国の財政事情」に訴えて批判をかわそうというねらいも見え隠れする。 尋問後の報告集会で、原告側弁護団の西山貞義弁護士は「“国民感情”や“国の財政事情”によって最低生活の基準を決定することは憲法や生活保護法に照らしても許されることではない。仮に一般世帯と比べるとしても、物価の下落率を持ち出す必要は全く無い」と、重ねて国側の主張を批判した。 原告の男性は「コロナ禍もあり、生活が苦しいのは生活保護世帯だけではないことは分かる。けれど、生活保護基準は就学援助や保育料、介護保険料や最低賃金など他の社会保障制度にも影響している。最低生活のラインが下がれば、生活保護受給者だけではなく日本に住む人全体の生活水準が下がってしまうおそれがある。庶民が足を引っ張りあうのではなく、日本全体の問題として知ってもらえるよう、裁判を通じて呼び掛けていきたい」と語った。