ウクライナが核攻撃されれば米国はどう報復するか 通常兵器で直接攻撃も、ロシアの演習で高まる緊張
米国のオンライン誌スレートの記者フレッド・カプラン氏の著書「The Bomb(爆弾)」によると、演習の想定は以下のようなものだった。 2014年のクリミア編入後、ウクライナ東部での戦闘への介入を続けるロシアが、隣接するバルト3国の一つに侵攻。対抗するNATO軍との戦闘で劣勢となったロシアが、敵に戦闘停止を強要するため、NATO軍、もしくはドイツの軍事基地に低出力の戦術核兵器を使用した―。 最初に行われた国防総省を含む各省庁の次官級会合では、ロシアへの核報復は強力な制裁措置より効果に乏しく、核使用の閾値を下げるマイナス面がある一方、核による反撃を自制することで、ロシアを孤立させ政治・経済的打撃を与える絶好の機会となるとの主張が優勢となり、通常戦力により反撃すべきとの結論に落ち着いた。 最終的に参加者のレベルを上げた閣僚級会合で、核報復しなければ米国の「核の傘」に対する同盟国の信頼が失われるとの主張が勝り、ロシアの同盟国ベラルーシに核攻撃するという結論に至った。
しかし、NATO軍、もしくは加盟国であるドイツへの核攻撃の場合ですら、通常兵器のみで対応すべきとの主張が米政権内にあったことが明らかになった。 ▽世論 ロシアの核攻撃への対応について、一般市民はどう考えているのか。米国そのものではないものの、同盟国であり、軍事作戦で米国と歩調を合わせることが多い英国の世論調査結果が出ている。 英国を拠点とする市場調査・データ分析専門会社「YouGov」は今年2月、ロシアの核攻撃についてオンラインでの調査結果を公表。 ウクライナの軍事施設に対して、ロシアが低出力の核で攻撃した場合、どのように対応すべきかとの問いに対し、核で報復すべきとの回答は7%に過ぎず、宣戦布告して通常兵器で攻撃すべきとするのは21%、最多は「宣戦布告に至らない何らかの行動を取るべき」で36%だった。 対象が英国の都市になると当然ながら、核報復すべきとの声は27%まで高まり、最多は宣戦布告の31%、「何らかの行動を取るべき」は17%だった。 × × ×
低出力の戦術核兵器 一般に戦術核兵器はTNT換算で数キロトンから数十キロトンと破壊力も比較的小さいほか射程も短く、地域レベルの戦場での使用を想定した核兵器を指す。低出力の核兵器はこれよりもさらに破壊力を抑えた兵器。独立系メディア「メドゥーザ」によると、ロシアが所有する戦術核は推定約800~1900発と幅があるが、運搬手段であるロケットの数を考慮すると、実際に使えるのは520~550発以下とされている。