Yahoo!ニュース

IDでもっと便利に新規取得

ログイン

「不要不急」と言われた博物館長の胸の内「社会のおまけじゃない」 問いかける「ものを考える場所」とは?

配信

withnews

「地味な領域」支えてきた理念

尾高さんは、今も、全国の美術館博物館の関係者と連絡を取り合っています。「不要不急の訪問先」とされる中、お互いの連帯は強まっていると感じているそうです。 「美術館、博物館の中でも、民間の企業博物館は『地味な領域』。それでも、文化・教育事業に対して社会貢献の理念がある人が、がんばってきた歴史があります」 今、全国の美術館・博物館はツイッターやフェイスブックなどを通じて毎日のように自分たちの活動を伝える発信を続けています。日本新聞博物館は、北海道博物館が始めたネット上で子どもたち向けのコンテンツを公開する「おうちミュージアム」にも参加する準備を進めています。 「不要不急の場所だと言われると、やっぱり、寂しいし、落ち込みます。でも、博物館が世の中にないとどうなるのか。ものを考える場所が、なぜ社会に必要なのか。今、するべきことについて、考えています」

「文化を守ってきた人を支える」

プライベートでも、美術館や博物館をよく訪れていたという尾高さん。「何のために自分が足を運んでいたのか、考えるようになりました。作り手が本物を見せてくれたり、理念や精神を語ってくれたりした時、心を動かされたんだなと」 「芸術や教養や思索やそのための歴史、身体に向き合う時間が、どんなに大切な意味があったのか。休館が続く期間、その喪失を感じています」 心配しているのは文化事業が「社会のおまけ」になりかねないことです。 「博物館だけでも、全国の4割以上が休館している今、文化を守ってきた現場の人を支えないといけない。文化事業の中には、雇用や経済が入っています。けっして『おまけ』ではありません。文化事業に携わりたいと思っている若い人もたくさんいます。美術館や博物館がないと、どうなるのか考えてほしい。社会にとって文化事業が欠かせないもの、大事なものだと思っている人は、また、足を運んでくれるはず。そう信じています」

記者の気づき

■取材のきっかけ ある日、フェイスブックに流れてきた尾高さんの投稿が目に入りました。「不要不急」とされたことについて複雑な思いを書きつつ、誰かを糾弾するわけではない落ち着いた言葉が印象的でした。 つらい立場でありながら、今回の事態を、博物館の役割について考えるきっかけにしようとつづる文章。そこに込めた思いが聞きたくなり、取材依頼のメッセージを送りました。 ■「コロナ前」との違い 日本新聞博物館にはこれまでも何度か訪れたことがありました。館内に入ると、大正末から昭和初期に製造された巨大なマリノニ式輪転機が出迎えてくれます。 メディアというと今ではウェブメディアやニュースアプリのイメージが強いですが、そもそも工場のような大がかりな設備が必要な「製造業」としての側面が強かった産業であることが、いやが応でも伝わってきます。 世界中の美術館博物館の収蔵品がネットで見られるグーグルの「アートプロジェクト(https://artsandculture.google.com/)」など、バーチャル上の取り組みは以前からありました。一度、見たものを再び確かめたり、今度、訪れたい場所を事前に調べたりするには、便利なサービスです。でも、休館を強いられ取材でも現地に訪れることができなくなった今、感じるのは、バーチャル上のコンテンツは、あくまで実物を補完する存在だったのではないか、ということです。 今後、VRやARなど技術の進化でデジタル空間での表現方法は確実に広がります。その変化は社会にとって歓迎すべきことであるのは間違いありません。 同時に危惧するのは、デジタルではできないことを考えないまま進んだ時、施設を訪れなければ得られない価値が置き去りにされてしまいかねない未来です。 ■挑戦がもたらすもの 尾高さんをはじめ美術館博物館の関係者は今、「不要不急」という言葉に向き合っています。 施設に足を運ぶことにどんな価値があるのか。それは、これまで理由を考える必要がないほど、当たり前過ぎることだったのかもしれません。 しかし、これまでの当たり前は、休館という異常事態によって崩れました。これからの美術館博物館は、足を運ぶことの意義を積極的に伝えていく姿勢が求められる時代になってしまったと言えます。 尾高さんの話の中で印象的だったのは、ボランティアとの交流が来館者に気づきを与えているという事実です。 本来なら接点を持たないはずの来館者と展示物、あるいはその場にいる人同士が、美術館博物館を通してつながり、さらに高め合う。そこには、現在のバーチャル空間だけでは生み出せない「セレンディピティー(偶然の発見)」という価値が生まれています。 例えば、従来の展示スペースが出会いのきっかけとなる場所として機能しながら、より深い交流をする場をバーチャル空間に引き継ぐ。これまでの役割と、挑戦するべき取り組みを整理できた時、新しい美術館博物館像が見えてくるのかもしれません。

【関連記事】