いくらなんでも自由すぎる!実写版『チップとデールの大作戦』を徹底レビュー
世界中で愛されるシマリスのコンビ“チップとデール”。彼らの活躍を実写とCG、2Dアニメーションが入り混じった“ハイブリッド実写CGアニメーション”で描く『チップとデールの大作戦 レスキューレンジャーズ』(Disney+にて独占配信中)。配信されるやあまりにも攻めた小ネタの数々に、ディズニーファン以外からも大きな驚きの声があがるほど。そこで本稿では、本作の魅力をネタバレも含みながら紹介していきたい。 【写真を見る】実写、2Dアニメ、3DCG…あらゆる映像表現を全部乗せ!攻めすぎな小ネタに世界中が驚愕 ※本記事は、『チップとデールの大作戦 レスキューレンジャーズ』のストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。 かつてアニメーションシリーズで大人気を博し、夢の生活を送っていたチップとデール。しかしその栄光は長くは続かず、チップは郊外で保険会社のセールスマンを、デールはCG手術を受けて懐かしのスターたちが集まるノスタルジア・コンベンション・サーキットで働きながら、それぞれかつての栄光に想いを馳せていた。そんなある日、かつての共演者だった仲間が謎の失踪を遂げる。その友人を救うため、別々の道を歩んでいたチップとデールは、再び“レスキュー・レンジャーズ”になることを決意することに。 ■ディズニー屈指の名コンビ!“チップとデール”が長編映画初主演 ディズニーの人気キャラクター“チップとデール”。彼らが初めて映画に登場したのはいまからおよそ80年前。プルートの短編映画『プルートの二等兵』(43)に登場した2匹のシマリスが原点と言われている。砲台を餌場にし、大砲の筒を器用に扱いながら木の実を割って食べようとした彼らは、兵隊のプルートと一騒動を繰り広げていく。 その時にはまだ2匹のキャラクターデザインに大きな差は見られず、名前さえ付けられていなかったのだが、その後ドナルドダックの短編アニメ『リスの住宅難』(47)で初めて“チップとデール”という名前が与えられる。その後もドナルドダックやプルートの短編映画にライバル役として登場しては作品を賑やかにかき回し、1950年代に入ると彼らを主人公にした短編映画シリーズも製作されるようになった。 そして1989年に始まったのがアニメシリーズの「チップとデールの大作戦 レスキューレンジャーズ」(Disney+にて配信中)だ。シマリスのチップとデール、ハツカネズミのガジェット、ネズミのモンタリー、ハエのジッパーが“レスキューレンジャーズ”というチームを組み、ネコのファットキャット率いるヴィランたちと対峙しながら様々な問題を解決していく様を描き、全65話が製作されて日本でも好評を博した。 その放送終了からおよそ四半世紀以上。リブート企画が持ち上がってから5年の月日が流れ、コメディアンでもある映画監督のアキヴァ・シェイファーが監督に決定してから本格的に製作が動きだす。アニメシリーズのように“レスキューレンジャーズ”としてのチップとデールの活躍が描かれるのではなく、「レスキューレンジャーズ」という作品に出演していた“俳優”としてのチップとデールが描かれるという、メタフィクショナルなストーリー。それが功を奏し、自由自在な映像表現と、あまりにも豪華な小ネタ&カメオ出演が可能となり、チップとデールの華々しい初主演長編映画がよりユニークなものになったといえよう。 ■いくらなんでも自由すぎる!豪華すぎる小ネタの数々 実写の映像のなかに古きよき2Dアニメのキャラクターが登場する。この方法論は名作『メリー・ポピンズ』(64)やディズニーランドの人気エリア「トゥーンタウン」の原点となった『ロジャー・ラビット』(88)でも用いられたおなじみの方法だ。それに加え、近年では実写と3DCGアニメーションが混在する“ハイブリッド”作品と呼ばれるものも数多く作られるようになっている。 本作では実写と2Dアニメ、3DCGアニメ、さらにはクレイアニメのキャラクターまでもが一つの画面のなかに次々と登場する、“ハイブリッド”の極致を実現。しかも誰もがよく知るアニメキャラクターたちが“俳優”として生活する世界を描くことで、実写とアニメの垣根が完全に取り払われた多様性に富んだ画面が展開し、いつしか現実との境界も取り除かれてしまうような錯覚をおぼえるほど。危機に陥ったアニメ俳優たちを救うために奔走するというプロットも然り、これはまさにチップとデールによる究極の『ロジャー・ラビット』といったところだろう。 そのバトンタッチを示すかのように、映画序盤には『ロジャー・ラビット』の主人公ロジャー・ラビットがチラリと登場。さらに『三匹の子ぶた』(33)の子ぶたたちや、『美女と野獣』(91)のルミエール、マーベルキャラクターのティグラ、実写版『ジャングル・ブック』(16)のバルーなどディズニー関連のキャラクターが続々と登場。また、悪役としてチップとデールの前に立ちはだかる“スイート・ピート”は、まさかのディズニーの名作アニメ『ピーター・パン』(53)のピーター・パン。おじさんになって邪悪になったその姿は、なかなか衝撃的だ。 劇中には、ディズニー作品に限らずありとあらゆる作品のキャラクターが登場する。チップが自宅のテレビで見るCGアニメは、同じシマリスのキャラクターである「アルビン」シリーズの作品であったり、保険会社にやってくるヒツジのビジュアルはアードマンの「ひつじのショーン」と同じデザイン。ドリームワークスの「シュレック」にいたっては、まったく売れなかったシュレックグッズを溶かして再利用されるという、かなり挑戦的な扱いを受けており、いったいどんな許諾を取れば実現できたのかと思うようなシーンが次から次へとやってくる。 さらには「ソニック・ザ・ムービー」の第1作が公開される前に騒動になった、ボツデザインのソニックが“アグリー・ソニック”として大活躍。路地裏ではこちらもデザインが物議を醸した『キャッツ』(19)のネコたちがケンカしていたり、街の看板にはメリル・ストリープが『ミセス・ダウト』(93)のパロディを演じ、E.T.とバットマンが共演(!)したり、「アントマン」シリーズでおなじみのポール・ラッドや、意味もなく現れるヴィン・ディーゼルなど、とにかくやりたい放題のお祭り騒ぎ。 かなり細かいところにまで目を配れば、『Mr.インクレディブル』(04) のフロゾンが食品のパッケージにデザインされていたり、スイート・ピートに捕まり改造されたキャラクターたちのパーツが掲げられている壁には「トイ・ストーリー」のミスター・ポテトヘッドから、「ドラゴンボール」の神龍まで確認することができる。序盤のコンベンションの群衆のなかにはセーラームーンや悟空のコスプレをした人も見受けられ、小ネタを探すだけでもかなり楽しめること間違いなしだ。 ■オリジナルファンの心もつかむ直球の友情ストーリー 映画ファンやディズニーファンの心をくすぐるようなマニアックな小ネタはもちろんのこと、大人も子どもも楽しめるようなシンプルでわかりやすいストーリーも本作の魅力のひとつだ。些細なことで物別れになってしまっていたチップとデールが、仲間の危機を救おうと実生活でも“レスキューレンジャーズ”になり、コンビとしての絆を取り戻す。自由すぎる作品のテイストに呑み込まれそうになるとはいえ、直球の友情ストーリーには胸を熱くせずはいられない。 映画の冒頭は、まだ子どもだったチップとデールの出会いのシーンから幕を開ける。考えてみれば、当然のように一緒にいる2匹がどのように出会ったのかというバックグラウンドはあまり考えたことがなかった。これまでのチップとデールの作品とはまるで世界観が異なるとはいえ、なかなか興味深いものだ。そしてアニメシリーズの「チップとデールの大作戦」を観ていた人なら必ずやワクワクしてしまうクライマックスのチーム再結成の瞬間。 劇中の会話のなかには、実際に作られていないエピソードの話題もたびたび持ち上がるのだが、第55話「ホタルの願いに光を込めて」など実在のエピソードの話にも触れられている。話題に上がったエピソードをチェックして、もう一度本作を観返してみるというのも楽しみ方の一つだろう。 “レスキューレンジャーズ”の5匹全員が集結したとあって、ここから新たな物語が始まりそうな予感がただよう。配信がスタートしてからまだ1週間足らずだが、すでに世界中で続編を望む声が多く寄せられているという。先日「ComicBook.com」のインタビューのなかで、脚本を務めたダン・グレガーとダグ・マントは「まだたくさん語るべきことがある。まだ序章にすぎず、わたしたちにはいくつものアイデアがあります」と続編製作への強い意欲をのぞかせていた。 映像表現としての可能性を最大限に活かしきり、それでいて往年の人気キャラクターにまったく新しい光を当てる。これまで数多く作られてきたリブート映画とはまるで違うキレ味で最大限にはじけてみせた本作が、シリーズ化されるとなれば次はどんな一手が繰り出されるのか楽しみでならない。その際には、是非ともプルートやドナルドダックと再共演してもらいたいものだ。 文/久保田 和馬