飲食店皆無、魚は釣るか貰うしか…日本海にポツンとたたずむ「累計コロナ感染者0人」“ノーマスク生活の離島”ルポ
日本国内で感染者920万人以上、死者約3万1000人を出した新型コロナウイルス。3年を経てようやく流行は下火になりつつあるが、この間、1人の感染者も出さなかった自治体が日本海の離島にある。 【画像】島民の累計感染者ゼロ…日本海に浮かぶ“ノーマスク生活の島”「知夫里島」を写真で一気に見る 伝播力の極めて強いウイルスを島民たちはどう防いだのか――。「一足早くマスクのない生活が実現している」という “ゼロコロナの島”を取材した。 ◆ 「新型コロナと無縁の島がある」。島根に住む情報源から情報を聞きつけ、さっそく現地取材の算段を立てた。 その島は隠岐諸島にある4町村の一つ知夫村。村の面積は13・7平方キロメートル、東京都墨田区とほぼ同じ面積だが、人口は600人余り。 太古の昔に火山の噴火によってできた火山島で、観光名所となっている標高325メートルの最高峰・赤ハゲ山からは島前諸島のカルデラが一望できるという。水田はなく、急峻な山地でわずかな畑作と肉牛の放牧、四方を囲む海ではヨコワ(マグロの稚魚)やイワガキの養殖、天然ワカメの採取がさかんな島だ。
フェリーに揺られること2時間…
県庁所在地である松江で1泊してバスで40分、フェリーが発着する七類港に着いた。さらにゴロ寝のできる2等船室で揺られること2時間、知夫村の玄関口である来居(くりい)港に到着した。 2300トンの船体から下りたのはわずかに20人ほど。港では手際よく車両の積み降ろしが行われ、10分ほどでフェリーは他の島に向かって離岸していった。他の乗船客は迎えや駐車場にある自分の軽自動車であっという間に去っていく。
事実上唯一の玄関口ではあるものの、来居港には本当に何もない。正確に言えば2階建ての小さなターミナル、ガソリンスタンド、遊漁船の船宿が見えるだけ。タクシーは1台だけあるが、村民が診療所や買い物に使う足になっており、終日のチャーターは難しい。それでもレンタカーは軽自動車が数台あるという。
80年代の歌謡曲が流れる村営バスに乗って中心部へ
ターミナル1階の観光協会で尋ねると、中心部の大江地区まで村営バスが出ていると案内された。100円を払って「村営バス」という名のワゴン車に乗る。なぜか運転手がスマホで80年代の歌謡曲を流す中、会話のない車内に5分ほど耐え、「繁華街」とされる郡地区で下車した。 だが「繁華街」といっても歩いている人は誰もいない。小学校と中学校が一緒になった校舎は、村営図書館が同居する。校庭で運動する子供たちの元気な声だけが集落に響いている。 小川を覗くと小さなフグが群れをなして泳いでいた。車もほとんど行き来しない。近くに1軒だけ新しい商店があった。 様子を見ると70代ぐらいの男性が出てきた。買い物袋に弁当を下げている。顔を見るとマスクをしていない。確かに「ノーマスクの島」は本当のようだ。 店に入ると、顔を見合わせた店員のお兄さんに「すみません、手を消毒してもらっていいですか」とやんわり諭された。明らかに見ない顔=よそ者の筆者に警戒している。商店には各種菓子パンが並び、コンビニと遜色のない品揃えに加えて野菜や果物も陳列してある。冷凍になるが精肉もたくさんあった。