養育費の取り決め後「支払が滞った」際にできること 新制度と変更点を弁護士が解説
相手の勤め先や財産が不明な場合の対処
調停調書や裁判の判決書、公正証書があればそれらに基いて相手の給与や財産を差し押さえる手続きを取れます。 この手続きを取るには、 ・ 差し押さえるのが不動産の場合にはその所在地の最寄の裁判所 ・ 預金や給与の差押えについては相手の所在地の最寄の裁判所 が基本です。 差押えの対象物によって裁判所の管轄が異なることがありますので注意が必要です。 もし、先のように相手の財産や勤め先が分からないという場合であれば、相手に財産を開示するよう求める手続きや、さらに今年4月からは「第三者からの情報取得手続き」という制度を使って開示を求められるようになりました。 「第三者からの情報取得手続き」は、 (1) 登記所から取得する相手名義の不動産 (2) 相手の勤め先から住民税の源泉徴収をしている会社を把握する市町村や、厚生年金を納付している会社を把握する年金機構から取得する相手の勤務先 (3) 金融機関などから取得する相手の持っている預貯金などの財産 について、情報の開示を求められるというものです。 このうち、(1) についてはまだ登記所での手続きの整備中で、来年5月16日までに開始される予定になっていますので、現在利用できるのは (2) と (3) です。 ■(1) と (2) について ただし、(1) と (2) については「財産開示手続きの制度を使っても財産が不明であった」という事実が必要です。 財産開示の手続きは、相手方が裁判所に呼び出されて「財産があるかどうか」その所在について確認する手続きです。 この財産開示を申立できるのは、調停調書や判決書に基いて差押え手続きをしたけれども、全額の回収ができなかったというケースに限られています。 そのため、まずは調停調書などで差押えして全部回収できなかった(となると1回は差押えしたことが必要です)という場合でないと利用できません。 また、財産開示でうまくいかなかったと際に、それを踏まえての (1) と (2) の情報取得手続きの利用ですので、実際のところ今後どのくらい利用する人が出てくるのかは未知数ではないかと思います。 特に勤め先が判明すれば、いったん未払が発生したために差押えすると、あとは期限が来ていない将来分の養育費も含めて差し押さえられます(ただし、期限が来て以後の受け取りです)。 最大給与の1/2まで差押えできるので、相手が勤め先を辞めない限り支払を確保できるというメリットがありますが、勤め先が分からなくなった後の調査となると利用できる制度ができたとは言え、まだハードルが高いと言えます。 なお、財産開示の手続きはこれまでにもあったのですが、支払督促という簡易な裁判手続きや公正証書での取り決めの場合には財産開示の手続きを利用できませんでした。 この度今年4月からは、支払督促の場合や公正証書での取り決めでも財産開示手続きを利用できるようになりました。 また、財産開示手続きを申立てられた側が裁判所の指定した日に来なかったり、嘘のことを伝えた場合は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金の制裁が科されることになり、対応しない場合の制裁が厳しくなりました。 先日、養育費に関してではありませんが、この財産開示制度を申し立てられたものの裁判所に出頭しなかった人が書類送検されたというニュースが出ていました。 今後は財産開示に応じなかった場合の取り締まりが厳しくなる可能性もありますので、(1) と (2) の情報取得手続きまでいかなくても財産を把握できるようになる可能性もあります。 そうなると差押えもしやすくなるのではないかと思います。 ■(3) について (3) の金融機関などから取得する相手の持っている預貯金などの財産の情報取得については、あらかじめ差押え手続きや財産開示手続きをしていなくても利用できますので、こちらの方は今後増えてくる可能性があります。 実際に筆者も養育費の関係以外でこの (3) の制度を利用したことがありますが、金融機関さえあたりがつけば支店名が分からなくても本店経由で相手がその金融機関に持っている支店の口座残高すべてが開示されるので、以前ほどの手間や外れは少なくなる可能性があります。 ただし、この場合には残高があることが前提ですので、それを上回る養育費の未払いがあると結局のところ全額回収は難しいため、判明した口座の差押え後、財産開示の手続きを取らなければならない可能性があります。 なお、「第三者からの情報取得手続き」で情報を取得した場合、提供から1か月経過すると順次相手に情報提供の通知がされます。 そのため、判明した口座に残高があり、差し押さえるのであればその間に行う必要が出てきます。
さらなる新制度・改正に期待
このように、養育費の確保につながる新しい制度ができたり、制度の改正がされていますが、使いやすさからいくとまだまだという印象があります。 今後さらに国が養育費の支払を立て替えたり、強制的に徴収する仕組みを検討する方向で政府が議論しているようですので、こちらの動きにも注目していく必要があることでしょう。(執筆者:片島 由賀)