百田尚樹氏がやり玉 マスコミの“壁耳取材”はルール違反?
「マスコミを懲らしめるべきだ」という発言が飛び出した自民党の若手・中堅議員による勉強会「文化芸術懇話会」。その場に講師として出席していた作家の百田尚樹氏がマスコミの“壁耳取材”をやり玉に挙げ、「ルール違反だし、卑劣だ」と断じたことから、“壁耳取材”に焦点が当たっています。これはどんな手法なのでしょうか? そしてルール違反?
より真相をつかむための取材手法
この勉強会は自民党本部で開かれ、冒頭の2分間だけ報道陣に公開されました。ところが、「マスコミを懲らしめるべき」などという発言は、報道陣の退室後に行われたことから、騒ぎは広がりました。“壁耳”にスポットを当てたのは百田氏自身。6月25日に「報道陣は冒頭の2分だけで退室したのに、ドアのガラスに耳をつけて聞き耳してるのは笑った。しかし、正規の取材じゃなくて盗み聞きを記事にするのは、ルール違反だし、卑劣だろう!」とツイートしました。それ以後、ネット上では賛否が入り乱れ、「盗聴とは卑怯だ」「壁耳取材は双方が暗黙の了解の下、日常的に行われている」といった発言が続いています。 “壁耳”とは、どんな取材なのでしょうか。会議や会合の取材において、入室を認められていない記者が出入口の隙間などに耳を押し当てたり、ICレコーダーをかざしたりしながら、内部の発言を記録する手法を指します。政党や官公庁の会議では、冒頭の数分間を撮影などのために公開し、その後は退室させるケースが少なくありません。何が話し合われたかについては、会議終了後、「ブリーファー」と呼ばれる説明役が記者団に要点を話したり、出席者から記者が聞き取ったりする流れです。 しかし、説明役が会議の内容をすべて話すとは限りません。都合の悪いことを隠したり、大した内容ではないものを針小棒大に語ったりする可能性が常につきまとっています。そこで“壁耳”によって、会合の様子を少しでも詳しくつかもうとするわけです。
聞かれたくない時は音楽を流す場合も
“壁耳”自体はかなり古くから行われてきたようです。国会内での会合では、部屋の扉が閉じられた後、記者たちが隙間を探して廊下に這いつくばるようにしている姿も少なくありません。産経新聞のスター記者、阿比留瑠比氏も自身のブログに「壁耳で始まる1日」(2006年6月)と題し、こう記しています。「…ドアの隙間から漏れ聞こえる声に耳を澄ますだけなのですが、話者と会議場所によってはけっこう聞こえるのです。…あほらしくもありますが、会合後のブリーフが微妙にニュアンスが違うこともありますので仕方ありません」。 こうした取材は、取材相手も承知している場合がほとんどで、半ば、暗黙の了解の上で続いてきました。会議中に出入りする要人らは、その都度、廊下や壁にへばりついている多数の記者を目にするわけですから、“壁耳”自体は秘密でも何でもないわけです。政治の世界では、複雑な政局の流れを読み解きながら、「この会合内容を記者に書かせたい」と思う政治家も少なくないようで、外に聞かせるために敢えて大声で話す者もいます。逆に、話の内容が外に聞かれないよう、室内で音楽を大音声で流す政治家もいます。それで有名になったのが民主党元代表の小沢一郎氏で、「絢香」や「中島美嘉」の曲をよくCDで流していたと言われています。 今回の“壁耳”騒動が噴出した後、共同通信の記者は実名ツイッターで<「卑怯な方法」による取材かどうかと「このニュースは真実か」は全く別個独立の文脈にある。そして「真実」を市民が知る価値はすごく高い。民主主義であるほど、市民参加の度合いが大きいほど、価値を高くみると思う。英BBCや英高級紙は真相を知らせるため「潜入取材」をする。>と記しました。“壁耳”が卑劣かどうかには直接言及していないものの、あれこれ評論する前に、その土台となる事実をつかむことが重要だとの意見です。同様に、毎日新聞の記者も実名で<百田氏は「卑劣だ」とツイッターで批判しました。自分の発言の非礼を自らに問うてみることはせず。>とツイートしています。先の共同通信記者とほぼ同じ意見です。