銀シャリ橋本直さん「細かいところが気になりすぎて」インタビュー 喋り言葉のテンションで「手が追いつかなかった」
ホテルのWi-Fiパスワードが、部屋のどこを探しても見つからない。飛行機の座席が、倒した覚えもないのになぜか既に倒れている。そんな日常の細かい出来事にいちいち気づき、目を光らせ、鋭くツッコミ続ける実力派芸人「銀シャリ」橋本直さんの初エッセイ『細かいところが気になりすぎて』(新潮社)が刊行されました。ツッコミの奥義について、橋本さんに聞きにいきました。 【写真】銀シャリ橋本直さんインタビューカットはこちら
書いた文章を読んで「よく喋るな!」
――『細かいところが気になりすぎて』。本当にその名前の通り。橋本さんがそのまま喋っているような、猛烈なスピード感のツッコミ文章ですね。目で追うのに精いっぱいです。 うるさいですよね(笑)。自分でも、書いていくのに手が追いつかなかったんです。 ――どうやって書いたのですか。まさか「文字起こしアプリ」でツッコミを起こしていった? いやいやもう全然(笑)。本当にもう、喋り言葉のテンションでどんどん書いていって、「伝わりづらいな」と思ったら直してみる感じが多かったです。もう全然、技術や書き方はわかっていない。とりあえず書いては直し、書いては直し、って感じでした。 漫才師のツッコミをしているから後天的に職業病として細かいところが気になるようになったのか、それとも先天的にそもそも細かいやつだったのか、今となっては自分でも謎ですが、とにかく言葉にしていなくても、日常的になにかしら気になってしまったことを脳内で即座にツッコんでしまっています。 この前も宿泊先のサウナでおそらく大学生とおぼしき5人が入ってきて、彼らがずっと喋っていたのですが、 A 「大谷翔平ってあれだけスターになると絶対大変よな」 B 「そらそうやろな。大谷翔平って乗ってる車もすごいんかなぁ」 C 「すごいんちゃう? 大谷翔平クラスになると、外出かけるのも大変よな」 D 「大谷翔平の一番好きな食べ物ってなんなんやろうか」 E 「いろんなもん食べてるしな。大谷翔平って普通にテレビとか見たりすんのかな」 一人目以外はもう大谷翔平って付けんでええやろ! 「テーマ大谷翔平」になってんねんから。 (「はじめに」) ――この「はじめに」の章から超特急ですよね。 ホントうるさい(笑)。 ――しかも、「テーマ大谷翔平」の大学生たちへのツッコミは、これで終わりません。 あはは(笑)。そうですね。 そもそも会話の内容がピュア過ぎるやろ。小学生か! なんの生産性もないこの会話はなんや。まぁ雑談に生産性もなにもないのはわかるけれども。それに、5人が横一列に座っているわけではなくて2人が下の段に、3人が上の段に座っていました。『ミュージックステーション』のときのバンドみたいな座り方すな! とかも思ってしまいます。 (「はじめに」続き) ――次から次へとツッコミに拍車がかかり、言葉が足されていく。後から付け足して書くことも? いや、「たとえ」は1個でいいのに、即座に3つぐらい並べてしまうんです。全部言いたいんでしょうね。情報量が多い。書いた文章を読んでみて「よく喋るな!」と思います。楽しく書けました。書けて楽しかった。 ――そのツッコミ能力はどう培ったのですか。 もうたぶん、テレビをいっぱい観ていただけです。テレビが大好きだから、テレビっ子で、テレビ、テレビ、全部テレビ。小っちゃい時から、大人が喋っている語感が好きなんでしょうね。引っかかった。でも別に「勉強した」って感覚はないですね。言葉を覚えるために、とか、あんまりないです。 これは共感してくれる人も多いと思うが、(ホテルの)部屋の冷蔵庫がまったく見当たらない時がある。インテリアをウッドテイストで統一し、スマートかつエレガントにしすぎているせいだ。 「冷蔵庫どこやねん!?」と焦りながら、木目調の家具やテレビ台の扉をパタパタと開け、何なら絶対にちがうと分かりつつも引き出しもひっぱって探ると、「いや、ここ開くんかい!」と、突如として白い冷蔵庫が顔を出す時は、妙に腹が立ってしまう。 「徳川埋蔵金みたいな顔すな! 銀行の金庫の隠し扉ぶりやがって」。ツッコミというか悪態が止まらない。 (本文より)