被害女性が語る「個人撮影AV」の闇 ギャラ50万円は支払われず、普通に会話できない撮影者が急増中
いま「個人撮影」と呼ばれるアダルト映像が注目を集めている。別名「同人AV」とも称され、個人やサークルが一般的な商業審査を経ずに制作・販売するのが特長だ。素人が撮影するそうした現場では様々なトラブルが起き、事件になることも。AV新法の成立によって活発化が懸念される同人AVの実情を『売る男、買う女』(新潮社)の著書があるノンフィクション作家の酒井あゆみ氏が取材した。 【写真】インタビューに応じた瞳さんと“杜撰すぎる撮影契約書” ***
SNSで「#即金」「#個人撮影」「#同人AV」といったタグを検索すると、何万件もの投稿がヒットする。中には「個撮キャスト」として、風俗店の在籍嬢紹介と見まがう写真が掲載されているものも。これは、同人AVの出演者の募集である。 個人撮影(個撮)という言葉そのものは30年前ぐらいからあったように思う。だが当時は非常にマニアックな世界で、プロダクションに所属していない、もしくは引退したフリーのAV女優を相手に、誰かの紹介などでたどりついた、セミプロのようなマニアの男が、撮影して楽しむ類のものだった。 そんな当時と今との大きな違いは、撮影者がほとんど素人である点。わかりやすいだろうか。一般的なAV作品は、審査団体の承認を得たうえで、流通・販売される。だが個人撮影のAVはそうした手続きを経ず、特定のサイト上でのみ、有料動画の形で販売されている。取り扱うサイトも老舗の「FC2」ほか、ひと昔より数十件は増えている。動画の値段はまちまちだが、20分の動画で1000円のものもあれば、1時間で2000円のものも。基本的にモザイク処理はない。 観る側からすれば、商業作品にはない、“生々しさ”が魅力なのだろう。だが、業界の後ろ盾がないなかでの撮影には、当然、さまざまな問題が生じるリスクがある。
契約書も交わしたのに
「カラミなしで50万円、プラス歩合というのに惹かれたのですが、結局ギャラは支払われませんでした」 と証言するのは、同人AVへの出演歴がある瞳(28=仮名=)である。彼女はもとも夜の仕事をしていたが、コロナ禍でシフトが減らされ、収入が減っていた。そこで2年前に撮影に参加することになった。 「きっかけはSNSのフォロワーの女の子が“知り合いの男がモデルを募集している”と投稿していたことです。もちろんアダルトの撮影であることはわかっていました。惹かれたのは『即金』で、拘束時間が3時間ほどと短かったこと。商業作品じゃなく、一部の人しか見ない動画サイトで流すから、身バレもしない、というのもよかった。フォロワーの子がいちど撮影されていて変な人ではなかったというので、彼女を通じて撮影者の男性とLINEで連絡をとり、スリーサイズや写真などの情報を送り、審査を待ちました」 合格となった瞳が待ち合わせ場所に指定されたのは、新幹線の駅がある関東の都市だった。 「往復の交通費は貰えましたね。駅前で待ち合わせて、そのまま近くのホテルへ車で行きました。30手前くらいの、モサい、細身の男の人でした。もう何本も同人AVを撮影していると言っていて、趣味というよりは副業だとも」 事前に提示されていた条件は、出演料の50万円に加え、動画の売れ行きに応じ歩合で30%。一応モザイクで顔を隠すものの、撮影中、瞳はマスクを着用する。“エステティシャン”という設定で、服は脱がず、本番行為も行わないということも決められた。 「ベッドの周りに何台かのカメラを固定して撮影。撮影そのものは問題なく終わりました。彼曰く50万円のギャラは後で振り込まれるという話だったのですが……次の日から、撮影者の男性のLINEがブロックされてしまい、連絡がとれなくなってしまったのです」 その時に交わした契約書があるというので、見せてもらった。〈乙は、本作品への出演に関し、甲の監督指示に従う〉〈双方の申請があれば、同意を取り消すことができる〉といった、それらしい文言が並んでいる。だが、肝心の署名欄には、印字された男の名があるだけ。住所もハンコもない、かなり杜撰なものだ。 「慌てて紹介者に連絡をとりましたが、その子も連絡がとれないと。配信前にモザイク処理をするという約束だったのですが、勝手に配信されたらどうしようと、しばらくは配信サイトをずっと監視していました。幸い、今もその動画は配信されていません」 紹介者というフォロワーに瞳は実際に会ったことはないという。私が推察するに、このフォロワーも撮影者の男が作った成りすましアカウントなのだろう。勝手に販売していないところを見ると、目的は女性を騙して楽しむことなのだろうか。瞳に交通費だけは支払ったことを鑑みると、近場の風俗店で遊んだほうが安く済みそうなものだが……。