「全ての表現の奥にはバイブレーションがある」インディーズ映画の巨匠が念願の映画化 安部公房の代表作『箱男』
■暗闇からのぞき見る…まさに映画館 石井監督:元々、原作が純文学で非常に実験的な小説で、読んだ人の数だけ解釈があるという風に作られているので、「読んだ人が箱男になる」ような、「自分が箱男の迷宮にアクセスする」ような仕掛けがしてあるので、はなからそれをまんま描くって、できないんですよ。安部公房さんの原作のエッセンスを、めちゃくちゃ優秀なスタッフたちの能力、映画力をもう限界までやった結果、今回僕らが与えられた条件の中で最善だという方法を取らせていただけたかな、と思いますね。 石井監督:これはやっぱり、体験していただきたいんですよ。「見る人が箱男になる」という体験として作っているので。特に、箱ですからね。これをかぶって窓からのぞき見る。まさに映画館の感じだと思って、映画館で体験していただきたい。「見た人が全部映画を完成させる」が私の持論なので、終わってからが、一番映画の面白いところだ、と言うか。私がそうなので。自分の心に残る映画は、見終わった後から始まる。そういう映画を目指したい。 心に残る映画は、見終わった後から始まる……「なるほど」と思いましたね。実はこのトークショーの時、私はまだ映画を見ていませんでした。台風10号の接近で、上映をしていなかったのです。 ■「世の中の最小単位はバイブレーションだ」 トークショーでは石井監督の映画論がさく裂して、面白かったです。 石井監督:世の中の根源的なもの、最小単位は、モノじゃなくて波動=バイブレーションだと思っているんです。音楽と非常に親和性が高い。楽器を鳴らすとか歌を歌うとかではなくて、例えば「詩を紡いで小説にする、音楽」。僕らの心の奥とか、使っていない意識とかに侵入してくるバイブレーション……すごく感じるんですね。 世界の最小の単位は物質ではなくて、波動、バイブレーションだというのです。聞いたことがない言葉で、「…すごい」と思ってしまいました。バイブレーションというのが具体的によく分からなかったのですが、自分の映画で以前に採用した博多祇園山笠のカットを例に挙げました。 石井監督:自分では経験ないんだけども、ある経験を起こさせる強いバイブレーションを持っていれば。(映画の中の)山笠は、実像じゃなくて、フォーカスを外して色彩の”にじみ”だけで動いている。逃げ水の中の山笠。それがまさにバイブレーション。その時は、自分で「何でこれを撮りたいのか」「これが必要だったのか」、分からなかったんですよ。 石井監督:その後にインドネシアを旅した時、バリ島で感じたバイブレーションが、山笠をフォーカスアウトにした色彩と全く一緒でした。全ての表現の奥にはそういうバイブレーションがあって、それが受け取る人の心を揺さぶるんだ、と。 僕らもニュースやドキュメンタリーを作ったり、アナウンスで「人の心に届け」と言葉を届けたりしているわけですが、「全ての表現の奥にはバイブレーションがある」。そうだろうなと思いました。