「全ての表現の奥にはバイブレーションがある」インディーズ映画の巨匠が念願の映画化 安部公房の代表作『箱男』
安部公房(あべ・こうぼう) 1924年生まれ。東京大学医学部卒。1951(昭和26)年『壁』で芥川賞を受賞。1962年に発表した『砂の女』は読売文学賞を受賞したほか、フランスでは最優秀外国文学賞を受賞。戯曲『友達』で谷崎潤一郎賞、『緑色のストッキング』で読売文学賞を受賞するなど、受賞多数。1973年より演劇集団「安部公房スタジオ」を結成、独自の演劇活動でも知られる。海外での評価も極めて高く、1992(平成4)年にはアメリカ芸術科学アカデミー名誉会員に。1993年急性心不全で急逝。(『箱男』パンフレットより) 主人公は、大きな段ボール箱をかぶって路上で暮らす男。「頭からかぶると、すっぽり、ちょうど腰の辺まで届く」段ボールで、洗濯機を入れるようなサイズです。小さなのぞき窓を開けて、目だけ外からは見えている…何とも変わった主人公です。演じるのは永瀬正敏さん。実は27年前に、石井監督は永瀬さん主演で映画化を試みたのですが、トラブルが起きて中断してしまいました。映画化は、2人の念願だったのです。 それから、箱男になろうとする「偽医者」役に浅野忠信さん。さらに重要な脇役で佐藤浩市さん。「これをインディーズ映画と言うんだろうか」というほどです。 安部公房の原作には、「目立つ特徴があったりすると、せっかくの箱の匿名性がそれだけ弱められてしまう」(新潮文庫、9ページ)とあります。見ていると知られずに人を観察する。匿名性。なんだか、SNS時代のような……。これが50年も前の小説だということも驚きです。映画パンフレットに載っていた対談で石井監督はこう語っていました。 石井監督「永瀬さんの演じる”わたし”は一番、私たちに近い人物だと思います。彼には迷いがあって、先代の箱男の残したノートがなければ立ち行かない。それは情報やスマートフォンがなければ自分でなくなってしまうような感覚に陥る、現代の我々の自画像ともいえる」(『箱男』パンフレットより) やはり原作の現代性も考えているんだな、と思いました。