アガサ・クリスティ原作の映画『ナイル殺人事件』に登場する「イエローダイヤモンド」に秘められた物語
アガサ・クリスティは美しい宝石の魅力をよく分かっていた。彼女の作品では、違法であったり不幸をもたらす宝石がキラキラと輝いていた。 たとえば、『Adventure of the Western Star(原題)』では、女優が愛するダイヤモンドの窃盗で脅された。『The Jewel Robbery at the Grand Metropolitan(原題)』では、裕福な株式仲買人の妻が光沢を放つパールを盗まれた。そして『青列車の秘密』では見事なルビーが富裕なアメリカ人相続人が命を落とす原因になった。だが、ほとんどは各小説の最後で、あの有名なベルギー人探偵エルキュール・ポアロが脳みそを使って、消えた宝石を見つけ出すのだ。 【写真】ジュエリーラバーに捧げる映画BEST8 そんなわけで、クリスティの1937年の小説『ナイル殺人事件』を原作にした新たな映画の中心に、また伝説のダイヤモンドが輝いているのはいかにもふさわしい。 映画の舞台はエジプトのグラマラスな汽船。多くのミステリアスなキャラクター(ガル・ガドット、アネット・ベニング、レティーシャ・ライトなどが勢ぞろい)がエルキュール・ポアロ(ヒゲを蓄えたケネス・ブラナー。監督も務める)とともにホリデーを過ごしていると、途中で殺人事件が起こり、ポアロの脳みそがまたもや活躍するのだ。 同作のティザー写真で、ガドットが演じるリネットという名のソーシャライトがアーミー・ハマー演じる婚約者とともに階段に立っているのが分かる。彼女の耳や腕には繊細な宝石が光を放っているが、最も視線を集めるのはカナリア色の石がついたネックレスだ。
「サイモン(アーミー・ハマー)が私の演じるキャラクターにプレゼントしたネックレスはレアで特別なものでなければなりませんでした」とガドット。「衣装デザイナーのパコ・デルガドから、世界中で最も重要なダイヤモンドの一つ、『ティファニー ダイヤモンド』を再現したものになると聞いた時は感激しました。セットにあれほど輝くティファニーのジュエリーがあるなんて、とても楽しい経験でしたね」 煌くイエローのダイヤモンドは、実は世界一大きなダイヤのひとつで最も絶妙な(あるいは“極上の”)色を持つ128カラットの「ティファニー ダイヤモンド」のレプリカ。1877年に南アフリカで採掘されたものだ。 もともとは287カラット以上ある石だったのをティファニーの創業者チャールズ・ルイス・ティファニーが1878年に購入してパリへ送り、主任宝石鑑定士が指揮して石を現在のクッションシェイプにカットさせ、82ファセットで最大の輝きとファイアが出るようにした。完成まで1年を要したこの宝石はその後、19世紀後半と20世紀のほとんどを、多くの国際展示会のスターとして世界中を旅し、“ダイヤモンドの王様”としてのティファニーのステータスを確固たるものにした。 今ではほぼ神話的なステータスを有している「ティファニー ダイヤモンド」は、同ブランドの貴重なアーカイブの一部になり、通常はニューヨーク五番街のティファニー本店の展示ケースに納められている。発見されてから人前でつけられたことは三度だけだ。 一度目は1957年、シンプルなホワイトダイヤモンドネックレスにマウントされたものをメアリー・ホワイトハウス夫人がチャリティガラでつけた。その4年後、ティファニーの先駆的ジュエラー、ジャン・シュランバージェによって、オードリー・ヘプバーンが『ティファニーで朝食を』の宣伝写真の撮影でつける、より精緻なリボンネックレスの一部になった。 1995年、ダイヤモンドはパリ装飾芸術美術館での回顧展用にシュランバージェの有名な「Bird on a Rock」ブローチのデザインにセットされた。2018年までそのセッティングで残っていたが、レディー・ガガが2019年のアカデミー賞授賞式でカスタムメイドしたネックレスの一部としてつけた。この宝石がレッドカーペットに登場したのは初めてのことだった。