なぜ横浜FC対名古屋の練習試合が新型コロナ厳戒体制の中で実施されたのか?中村俊輔「いろいろな声があると思うが…」
ただ、臨時実行委員会後に、DAZN(ダ・ゾーン)がトレーニングマッチのライブ配信を申し入れてきた。国内外でサッカーのほとんどが中断を余儀なくされているなかで、もともとは一般非公開とする予定だった一戦を、サッカーを待ち焦がれているファン・サポーターに届けることでグランパスと合意に達した。27日に発表されたリリースのなかで、横浜FCはこんな言葉を綴っている。 「プロ野球界でも選手が新型コロナウイルスに感染したことが判明し、政治レベルでも外出自粛要請が発令されるなど、日々、新型コロナウイルスに対して緊張感が高まっています。横浜FCでは今回の名古屋グランパスとのトレーニングマッチを、単なるチーム強化のための試合ではなく、すべてのサッカーファンに勇気と元気を与えるもの、加えて今後リーグが再開するにあたって、試合運営のベースになるような試合にしたいと考えています」 取材に訪れるメディアにはマスクの着用が義務づけられ、来場時や取材の前後で消毒用アルコールによる手指衛生も励行された。さらに受け付けの際に全員に対して検温が実施され、37.5度以上の発熱が確認された場合には取材を控えてもらうように要請する準備も整えていた。 ホームのグランパス、そして横浜FCともに、日本野球機構(NPB)と共同で設立した新型コロナウイルス対策連絡会議で専門家チームから提言された、定点での体温測定、せきや倦怠感、咽頭痛、食欲低下の有無などの健康チェックを励行。うがいや手洗い、マスク着用も欠かしていない。 今回の遠征には同行しなかったものの、53歳の現役最年長選手、FW三浦知良がガウン姿で手洗いを実践。洗いながら日本人にも馴染み深い『Happy birthday to you』を2度歌うと「まんべんなく洗える」と推奨する動画は、一般にも公開されて大きな反響を呼んでいる。
名古屋遠征は通常新幹線での移動となるが、駅や列車内での人混みを避けるために片道約3時間半かかるバスでの移動に変更。遠征帯同選手を18人にとどめたのも通常の公式戦にそろえるだけでなく、座席をなるべく空けて座らせる配慮も込められていたはずだ。 東京都の小池百合子知事の要請に呼応する形で、神奈川県の黒岩祐治知事も今週末において不要不急の外出を控えるように呼びかけた。東京をホームタウンとするFC東京や東京ヴェルディ、FC町田ゼルビアが週末の練習やトレーニングマッチを休止した状況も把握した上で、トレーニングマッチでは異例となる前泊を採用。試合前の室内におけるハイタッチもすべてひじタッチに変えた。 文字通りの厳戒態勢下で行われた一戦は、開始早々にミスからグランパスへ献上したゴールを取り返せないまま、0-1で試合終了を告げるホイッスルを聞いた。後半にはペースを握る時間帯も多かったことを受けて、横浜FCを率いる下平隆宏監督は試合を行えたことをポジティブに受け止めた。 「こういう時期にこういうゲームをやらせてもらったのは、本当にありがたいことだと思っています。延長、延長でコンディションやモチベーションを作っていく部分はありますけど、ただ我々はこうやってサッカーができる。サッカーをしながら、こういう時期をしっかりと乗り越えられれば」 当初の予定通りスタンドは開放されていない。練習の成果を試すトレーニングマッチは、新戦力のフィット具合やセットプレー時の約束事などを伏せる目的で、メンバーそのものも非公開とされることが多い。しかし、今回はDAZNの配信を介してすべてを開示した。 「非常に難しい時期だし、いろいろな声があると思うけど、こういうなかでも試合ができて、それを見てもらえたことは本当によかったと思う。練習試合というか親善試合という形ですけど、DAZNさんをはじめとするさまざまな方々へ、みんなも感謝の気持ちを抱いてプレーしていたと思う」 チームキャプテンを任されて先発し、後半途中までプレーした俊輔も、スピーカー越しの取材でグランパス戦の価値を強調した。この日にIAIスタジアム日本平で行われた、清水エスパルスとジュビロ磐田のトレーニングマッチもDAZNでライブ配信された。予断を許さない状況が続くなかで、ファンやサポーターのもとへサッカーを近づける努力が、さまざまな形で積み重ねられていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)