待機者1万人超、臓器移植当事者の「感謝」伝えたい
臓器移植が長くタブー視されてきた日本
日本ではさまざまな社会的経緯から、脳死下の臓器移植が長くタブー視されていた歴史があると3人は指摘します。 「社会として人の死や『もしものことが起きたら』とか『亡くなったらどうするか』ということが語られてこなかったということも、臓器提供にかかわる議論自体が進んでこなかったことの背景にあるのではないかと思います」と渡邉さん。 「一方で、『自分に何かあった時には、臓器を提供したい』という意思を持っている方もいらっしゃって、そういった方たちの権利もまた認められるべきだという動きが過去にありました。時間はかなりかかりましたが、医療の制度の面などでも少しずつ臓器移植が前向きに捉えられてきていると感じます」
「ひと昔前には臓器提供意思表示カード(ドナーカード)の配布などもありましたが、今は免許や保険証、マイナンバーカードにも臓器提供に関する意思を表示できる欄があります」と中井さん。 「一度それを見て、考えて、自分の意思に当てはまるところにマルをつけてもらえたらと思います。先日、免許の更新に行ったら、この意思表示欄に関する説明を受けました。臓器移植を取り巻く環境は、少しずつ変わってきていると感じます」
「ありがとう」以外の言葉で言い表せない ドナーへの思い
中井さん、谷川さん、渡邉さん、いずれも臓器移植者。中井さんと谷川さんは家族から腎臓を、渡邉さんは亡くなった方より心臓の提供を受けました。臓器を提供してくれたドナーへの思いを、次のように語ります。 「私の場合は、腎臓移植を受けたおかげで大学も無事に卒業し、就職に至るまで健康な人とほぼ変わることなく元気で暮らすことができました。健康体である自分の身体にメスを入れることになるにも関わらず腎臓を提供してくれた父には感謝しかありません」と話すのは、父親からの腎臓移植を受けた谷川さん。 「その後はありがたいことに、結婚して子どもも生まれました。父から腎臓移植を受けることがなければ全く違う人生を歩んでいただろうし、もしかしたら死んでいたかもしれません。一方でさまざまなライフステージを歩んできた中で、親になって初めてわかる感覚もあります。感謝はもちろんですが、子どもの頃には感じることのできなかった、『愛する我が子に自分の臓器を提供するとはこんな気持ちなのか』という不思議な感覚を持つことがあります」