大阪・松屋町の武者人形が育てた歴史作家 片山洋一さん
大阪・松屋町の武者人形が育てた歴史作家 片山洋一さん THEPAGE大阪
ときに人は多彩な顔を持つ。甲冑姿の荒武者、特注車を手掛ける自転車販売店の店主。そして新進気鋭の歴史作家。大阪を拠点に、ひとり三役をこなす片山洋一さん、その内面と実像に迫る──。
戦国コスプレ隊を臨機応変まとめあげる
片山さんと初めて出会ったのは、大阪ミナミの地下街なんばウォークで開かれた戦国コスプレ大会だった。真田家の赤備えで決めた母と娘の幸村ツインズなど、戦国武将や忍者に扮したコスプレーヤーたちが集結。コスプレコンテストの後、地下街を練り歩き、冬の陣商戦を盛り上げた。 ただし、勇壮華麗な甲冑姿とは裏腹に、なんば隊はこの日限りの混成軍。緊張気味の美少年戦士もいて、整列はしたものの、どことなくぎこちない。そのとき、リーダー役を名乗り出た甲冑姿の武将が、片山さんだった。 「ほら貝を鳴らせ」「勝どきをあげろ」――ときおり士気を鼓舞しつつ、隊列を率いて地下街を一周。「六文銭まんじゅう」などのオリジナル戦国メニューをのぞきこみ、「なかなかうまそうじゃ」とアドリブでアピール。イベントに勢いを与え、販売促進にもひと役買った。 臨機応変の統率力を示した片山さんが、大坂の舞台とした歴史小説を刊行した気鋭の歴史作家であることも、会場のアナウンスで判明。後日の追加取材の約束を取り付けて別れた。
商店街の店頭で武者人形たちと巡り合う
大阪市中央区の松屋町。古くから人形や玩具、駄菓子などの問屋街として名高い。大阪人はそれこそ、おもちゃ箱をひっくり返したようなにぎやかな発音で「まっちゃまち」と、呼ぶ。町の一角に、片山さんが父親と切り盛りする自転車販売店「カタヤマサイクル」がある。 片山少年は松屋町で遊びながら育つ。「5月の節句が近づくと、武者人形が店頭を埋め尽くす。ものごころがつくころには、武者人形の鎧(よろい)や兜(かぶと)に魅せられていました」と振り返る。長じて甲冑の研究を始め、2004年、同志を糾合して「甲援隊」を結成。甲冑コスプレを楽しむだけではない。甲冑姿で各地のまちおこしイベントに参戦して、人の心を熱くし、まちを元気にしたいとの思いを貫く。 「なんばウォークのイベントも、当初は主催者からただ歩いてもらうだけでいいと言われましたが、遠方からやってきた参加者もいるので、歩くだけではもったいない。出陣式風の演出などを取り入れてみませんかと提案したところ、急きょリーダー役を引き受けることになりました」(片山さん) 隊員が勢ぞろいすることもあれば、あまり隊員が集まらない場合、他の団体と合流のうえ連合軍で作戦を展開することもある。自己表現と全体への配慮など、小説執筆にも役立つ人間関係構築の要諦は甲援隊の活動から学んだ。