「黒い雨」救済、83歳女性が岡山県提訴…新基準推定雨域外での被爆者認定求める
広島への原爆投下後に降った「黒い雨」で、救済対象を広げた国の新基準でも被爆者と認められなかった岡山市の女性(83)が29日、岡山県を相手取り、被爆者健康手帳の交付申請を却下した処分の取り消しなどを求めて岡山地裁に提訴した。厚生労働省によると、広島地裁以外での新基準を巡る提訴は初めて。(浜端成貴) 【画像】横断幕を掲げて地裁へ向かう弁護団ら(岡山市北区で) 訴状などによると、女性は4歳の時、新基準の推定雨域外となる広島県津田町(現・廿日市市)の自宅付近で黒い雨を浴び、自己免疫性肝炎などになったとして、今年3月、岡山県に被爆者手帳の交付を申請したが、7月に「黒い雨が降ったと確認できる資料がない」として却下された。
国は2022年4月、〈1〉黒い雨に遭ったことが否定できない〈2〉がんや肝臓の機能障害など11疾病のいずれかにかかった――の2要件を満たせば被爆者と認める新基準の運用を開始。〈1〉については、研究者らの推定雨域などを目安に審査されている。 女性の弁護団は、女性には雨でピンク色の服が黒く染まったという鮮明な記憶があり、津田町で黒い雨が降ったと訴える人が他にもいるとし、「推定雨域を決める際の調査は不十分で、雨域以外にも黒い雨は降った。被爆者と認めるべきだ」と、却下処分の取り消しなどを求めた。 また弁護団は、女性は〈2〉の要件に当てはまるものの、「被爆者援護法では、被爆者と認定するために、11種類の疾病の発症という結果は要件とされていない」として、〈2〉の要件そのものについて不要とも主張している。 伊原木知事は提訴を受けて「訴状が届いていないためコメントは差し控える」とした。
同じ境遇の人「背中押せれば」
「ひどい目に遭った人が自分の名前を明らかにできないこと自体が被爆の被害だ」 弁護団の則武透弁護士は訴状を提出後、岡山市内で記者会見を開いて訴えた。 女性は89歳の夫と長男には提訴の決意を機に黒い雨を浴びたことを話したが、長女にはいまだに明かせていない。長女は別の難病を患っており、自身が原因かもしれないと思っているためだ。この記者会見にも出席を見送った。 国は被爆2世について、原爆放射線の健康影響を調査する日米共同研究機関の研究で遺伝的影響は確認されていないことを主張しているが、それでも不安はぬぐえないのが被爆の実態だ。 女性が提訴に踏み切るきっかけを作ったのは、今年4月に結成した原水爆禁止県協議会などで構成する「『黒い雨』を考える岡山の会」。同会は6月、黒い雨による被爆者認定の対象者を掘り起こすため、電話相談会を開いた。読売新聞の報道で知った女性は電話をかけ、背中を押してくれた弁護士らと出会った。 女性は読売新聞の取材に「同じような人はほかにも多くいると思う。今度は私がその人たちの背中を押せれば」と話している。 則武弁護士は会見で、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞決定にも触れ、「核兵器が使用されれば、何十年経っても被害は拡散される。世界が注目しているのに、日本政府がなぜこういう人たちを救済しないのか」と憤りの表情をのぞかせた。 会見には、被爆者支援団体に所属する被爆2世ら約10人も同席。75歳の女性は「私たちは被爆者の生の声を聞ける最後の世代だ。県には被爆者が語れる環境づくりに注力してもらえるよう働きかけていきたい」と話した。