名古屋城の木造復元計画はなぜ行き詰まっているのか?
混乱はまだまだ続く
河村市長は今年2月、入場禁止にしている危険な天守を先に取り壊すという奇策に出ようとしたが、当然ながら文化庁の許可は出ず、22年に先伸ばしていた完成計画を8月、ついに断念した。 ところが11月28日の市民向け説明会では、対立していた有識者会議「石垣部会」と意見が一致したと発表。石垣部会は文化庁と歩調を合わせて石垣保護優先としていたが、それを市が認めたわけだ。名古屋市は大きく方向転換した。 とはいえ首尾よく石垣調査・保護ができたとしても、どういうものを建てるかという問題は何も解決していない。史実に忠実な木造だと観光客を入れられないので借金は返せない。エレベーターと避難路のある耐震耐火ハイブリッド木造にしたら、そんなものは本物ではないという声が高まるだろう。また、文化庁が歴史的建造物としての価値を認めている現在のコンクリート天守を、大阪城や熊本城のように耐震施工して残すべきという人たちは、木造復元事業差し止めの訴訟を起こしている。 石垣部会の著名な歴史学者・千田嘉博氏は、現代なら耐震耐火、バリアフリーの復元が望ましいと過去に発言している。文化庁もそれなら許可を出すかもしれないが、「史実に忠実な」復元を主張し続けている河村市長は、どうするつもりだろうか。名古屋市民の大半はこうした事情を知らないままで、名古屋城の混乱はまだまだ続きそうだ。 (水野誠志朗/nameken)