「中学生で“ゲイ”に出合った」いま注目のドラァグクイーンが語る男性との結婚と亡き母への想い
思いもしなかった「結婚」
36歳のとき、ドリアンにひとつの出会いがあった。 「私が不定期で開催している談話室ドリアンというバーがあるんですけど、彼はそこへ来てくれるようになったお客さんで。それ以前から存在は知っていて、可愛いなと思ってデートに誘ったんです。何度か会ううちに『若いのにしっかりした考えを持っているし、居心地もよいな』と思って、お付き合いしてくださいと伝えました」 その彼こそ後に結婚することになる、現在ドリアンのネイルを担当しているネイリストのキラだった。 「正輝のことは八方不美人の活動で知っていて、物騒でおどろおどろしい歌を歌っているらしいと友達の間で話題になっていたんです。初対面の感想ですか? 圧が強い、声がデカいでした(笑)」 キラはトランス男性のゲイ(女性として生まれたが心の性が男性で恋愛対象が男性)をSNSなどでオープンにしていたため、「物珍しさで誘われた?」と思ったそうだが、そうではないことに安心感を覚えたという。 「正輝は言葉にはしないんですけど、一緒にいることがうれしいと感じていることが伝わってきて。だんだん居心地がよくなってきて、一緒にいたいなと思ったのが始まりでした」 ドリアンは付き合いが始まるとすぐに「いつごろ一緒に住もうか?」「ウチに来ない?」と同棲を提案してきたという。 「ちょっとまだ早くない?と言うと、『じゃあいつからがちょうどいい?』『一緒に住むために部屋をきれいにしたから安心して!』とめげずに言ってきて(笑)。気づいたら僕がすぐにでも入居できる状態になっていました」(キラ) 付き合って2か月で同棲するようになったキラは、ドリアンの意外な面に驚くことになる。 「ドリアンのときはとても上品なんですけど、素の正輝はズボラで、全然気にしないタイプ。脱いだ靴がひっくり返っていたり、廊下に片方靴が落ちていたり、脱いだ服がそのままだったり……ホント、小学生男子みたいで。事前に聞いてはいたものの思っていた以上で、細かい性格の僕は最初『もー!』となっていました(笑)」(キラ) 今では気になるところは話し合い、譲るところは譲って、2人なりのルールで生活をしているという。ドリアンの父親も「キラさんに出会う前、正輝の部屋は散らかり放題でしたが、その後は部屋をちゃんと片づけるようになった」と証言している。そして「部屋の散らかり具合はその人の生活や行動に影響してくるので、それがキラさんのおかげでちゃんとできるようになったことが今の正輝の活躍につながっていると思う。今後も正輝を支えてほしい」と言葉を続け、目を細める。 これからもお互いにずっと一緒にいたいと考えていたとき、キラが戸籍の性別を変更していないことで「入籍できる」ことに気づいたというドリアン。キラは「付き合って2年目くらいから結婚についての話が出ていて、籍を入れるメリットとデメリットについて、お互いに考えたことを共有していました。僕の場合は婚姻届を出すと女性から男性に戸籍を変えられないという問題があったんですけど、自分たちにとって安心できることを優先させて、籍を入れました」と話す。 ドリアンも「法律上の婚姻ができるとさまざまな社会保障が享受できるのに、何十年も連れ添っている同性パートナーたちが享受できないのはおかしい」と感じていたことが大きかったという。 「キラとは今後もずっと一緒にいたいし、いるだろうし、自分もそろそろ身体にガタがくる年頃だし、そういった中で同性婚ができない今、私たちが取れる最善の策として、2024年2月28日に籍を入れました。 『それであんたがいいならいいよ』と母に言われていましたけど、まさかゲイの自分が結婚するとは思ってもみませんでした!」 ドラァグクイーンで一本立ちしたころに受けたインタビューでは「目指せ、野垂れ死に!」と息巻いていたドリアンだが、「連れ合いができるとね、長生きしたくなっちゃう」と笑う。 「そのころは破天荒で無頼な存在を目指していたんですけど……下手すりゃ看取られたいなんて思う、つまんねぇヤツになったな、と。でもキラは14歳下なので、順当にいけば私が先にガタがくるから、おしめ替えてよね、なんて話をすると『いや、僕のほうが先』『いや俺だ!』なんて犬も食わない会話を家でしております(笑)」