【増えすぎたクマ】このままでは人間のコントロール不能なフェーズに?クマ対応の「地域力」向上に必要なこと
これらの取り組みにより兵庫県では、19~20年度に100頭以上の個体を殺処分しなければならなかったが、22年度以降は、大胆な行動をするクマが激減し、生息数の増加も抑えることができた。23年度は兵庫県もドングリ類の凶作年だったが、秋の大量出没は起こらなかった。
山積する地域の課題クマ対策を進めるには
しかし、24年現在は、ドングリ類の大凶作に見舞われ、出没や捕獲数が過去最高の記録を更新中である。ただ、人の生活圏近くで捕獲される個体が多いものの、深刻な被害は抑えられている。もしかしたら我々の予想よりも多くのクマがいるのかもしれない。これらの判断はデータが出そろうのを待つ必要があるが、野生動物との共存には、こうした試行錯誤を日々行う人材が必要である。 クマ類の対策は、これまで被害対策が重要とされてきた。西日本では、柿や栗の木が人家周辺や田畑周辺に植えられていることが多く、生息数が少なかった時代でもこれらの実が放置されているとツキノワグマが出没する要因となった。被害報告を分析すると被害の7割以上が柿の木であった。 そこで、人が利用しない場合は実を早めに収穫したり伐採したりする被害対策に取り組んできたが、ツキノワグマが出没する集落には、その大きさにかかわらず総じて200本ほどの不要果樹が存在していた。それらを一掃するには費用と時間がかかる上、巨木化してしまうと地元では対応できない場合も多い。 さらに近年問題となっているのは、分布が拡大したことにより、クマが生息していなかった地域での被害が増えている点だ。こうした地域では、クマを集落に誘引しないようこれから対策を始めなければならない。範囲が広がってくると、誘引物管理や防護柵といった対策だけでは、もはや集落環境を守り切れなくなるという懸念が強まる。被害防除対策についても発想を転換し、新たな防除方法を開発していく必要性を強く感じている。 個体数管理においても、全国的に増加が著しい状況にある今、捕獲目標や捕獲上限などを検討し、クマを適切に捕獲する技術が必要となる。現状では既存の狩猟者に有害捕獲を依頼する取り組みを行っているが、地域の狩猟者の高齢化はすさまじく、またクマ類の捕獲に慣れていない狩猟者も多い。 趣味で狩猟を行う狩猟者に行政的な捕獲を任せるのではなく、専門性を兼ね備えた捕獲者が必要となり、後述するような鳥獣対策員という中山間地域の新たな職種を生み出す必要がある。 いずれにしても、個体数管理だけ、被害防除だけという発想では、クマ対策は進まない。それらは対策の両輪であり、どちらも進めていく地域力が日本の中山間地域には必要である。加えて、人口減少社会においても生物多様性を保ちながら豊かな農山村を守り育てていく知恵が求められている。