【増えすぎたクマ】このままでは人間のコントロール不能なフェーズに?クマ対応の「地域力」向上に必要なこと
日本のクマ類の生息状況は、この20年間で大きく変化した。そして今、もしかすると人がコントロール不能になる「増えすぎのフェーズ」に入っているかもしれない。この変化を読み解くために少し、時代を遡りつつ説明してみよう。 日本の多くの野生動物が明治から昭和初期までの乱獲により、絶滅の危機に瀕し、ツキノワグマも数を減らした。森林環境も1950年代までには、はげ山となるほど日本人は木材資源を使い果たし、野生動物が生息できる環境も極めて少なくなっていた。その後、捕獲を規制したことで、東日本のツキノワグマは生息数が回復した。 しかし、九州では絶滅、四国も20頭以下と今でも存続が危ぶまれている。近畿や中国地方では、90年代までに絶滅の危険性が深刻化したが、野生動物の保護管理による被害対策や地域個体群の安定的な存続などを目的とした「特定計画制度」が99年に発足して以降、保護を中心とした西日本の府県の挑戦が始まった。 兵庫県では2003年以降、可能な限り捕殺を減らすため、集落に侵入した個体であっても一度麻酔で眠らせ、個体識別のためにマイクロチップを挿入して学習放獣(集落を忌避するよう人間の怖さを覚えさせてから山へ返す)を行い、クマの行動修正を試みる取り組みを開始した。行動が修正できず、再び被害を与えた場合にのみ捕殺し、シカやイノシシの罠に捕まった場合、錯誤捕獲として放獣する体制を整えた。こうすることで、年間の捕殺数を10頭以下に抑えることに成功した。 現場での対応を日々行う中で、徐々にその個体数が回復していることを感じ取っていたが、明確に生息数が増加に転じていることが判明したのは、10年度の大量出没時のデータを分析した時であった。従来「クマ類は繁殖力が弱い」「増えにくい動物」といわれていたが、それらは海外のデータによるもので、日本のデータは得られていなかった。 兵庫県のデータからは、シカと同等とまではいかないが、年によってはそれに匹敵するほどの増加力を持ち、寿命も長く、順調に個体数が回復していることが明らかとなった。このままでは増えすぎてしまう恐れがシミュレーション結果から読み取れたのである。 そこで、推定生息数の中央値が800頭を上回った際には、政策転換、つまり増加する分を捕獲し、800頭前後で維持する管理へと舵を切った。また急激な増加を抑えるために、12年からは学習放獣を取りやめ、集落内に侵入する個体は、初めて捕まった場合でも殺処分する方針に転換した。ただし集落に誘引するものをなくす被害対策を行っていることが条件である。 推定値が800頭を上回る事態は、すぐにやってきた。15年度にはその域に達し、16年から狩猟の部分解禁、17年からはゾーニング管理(集落周辺に配置されているシカ・イノシシ用の箱わなにクマの捕獲許可も出すことができる)を開始した。いわゆるアーバンベア(人慣れ問題個体)を減らす取り組みである。山の中に十分なクマが生息しているため可能となる対策でもある。