「韓国の少子化、政府のリーダーシップが重要…国民全体の危機の共感も」
2024年アジア未来フォーラム [インタビュー]中原茂仁|子ども家庭庁参事官 まずは経済的な育児支援がキーワード さらなる男性参加・結婚奨励を重要視 男女ともに保育可能な環境整備 育児に肯定的なマインドの転換を誘導 女性への一方的な育児・キャリア断絶問題など 結婚希望の女性の減少は依然課題
「日本での少子化の危機克服の推進力は、国民的な共感と首相のリーダーシップがより強まったことで、初めて可能になった」 日本の子ども家庭庁の中原茂仁・総合政策担当参事官は9月3日、東京の事務所でハンギョレのインタビューに応じ、世界最悪の低出生率で危機に陥った韓国のための助言を求めたところ、このように述べた。中原参事官は「(史上最低の水準にまで低下した)日本の出生率はもう少し下がりそうだが、国家的に総力戦を展開しているので、近い将来には反転するだろう」と自信を示した。 日本の少子化政策のコントロールタワーの役割を担う子ども家庭庁は、首相直属の機関として昨年4月1日に発足した。厚生労働省、内閣府、文部科学省、警察庁などに分散していた子ども関連の政策を一元化した。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が推進する人口戦略企画部の新設は、子ども家庭庁をベンチマーキングしたものといえる。少子高齢社会委員会のチュ・ヒョンファン副委員長は7月19日、東京で加藤鮎子・内閣府特命担当相(こども政策 少子化対策 若者活躍 男女共同参画)に面会し、協力案を議論した。 中原参事官は内閣府で子ども関連の政策を担当し、子ども家庭庁に合流した創立メンバーだ。 ――昨年の日本の合計特殊出生率は1.2にまで低下し、人口減少の危機がさらに強まった。今年の展望は。 「昨年よりもう少し下がりそうだ。昨年12月に岸田文雄前首相の指示で『こども未来戦略』を樹立したが、政策の効果が出るまでには時間が必要だ」 ――未来戦略とはどんな内容なのか。 「減少が続く出生率の安定化が課題で、4つのポイントがある。1つ目は経済的支援だ。児童手当の支給対象を15歳から18歳まで引き上げ、子どもが3人生まれた世帯の1カ月の手当を1万5000円から3万円に引き上げた。妊娠手当5万円と出産祝い金5万円を新設した。2つ目は子育て支援サービスだ。妊娠から出産まで妊婦のための相談を行う。専業主婦は2歳以下の子どものための保育園を利用できなかったが、月10時間まで預けられるように変更した。保育園の保育士も、4~5歳の子ども30人あたり1人から25人あたり1人の水準に増やしている」 ――3つ目の働き方改革と4つ目の意識改革はどんな内容なのか。 「男女ともに保育により専念できるような環境を作ることだ。2030年までに公共機関と民間企業ともに男性の育児休業の利用率を、現在の30%から85%まで引き上げることが目標だ。最近、従業員100人以上の企業に残業時間と男性の育児休業の利用率の公表を義務化した法律も成立した。意識改革は、子どもを育てる育児を肯定的に考えるよう誘導するものだ。民間企業や地方自治体に意識改革を促す支援やSNSでの広報を要請している。良い事例ができればSNSに投稿を続けていく」 ――少子化関連の予算も増えたのか。 「こども家庭庁予算は2022年度で4兆7000億円。ここに加速化プランで国地方合わせて3兆6000億円が加わることになる」 ――韓国の2023年の少子化関連予算は国内総生産(GDP)比で2.15%だ。巨額の予算を使っているにもかかわらず、出生率を高めることに失敗したという批判が出ている。フランスやドイツの予算は国内総生産の3%を超えている。日本はどうか。 「日本はGDPの2.2%程度だ」(韓国と日本は同水準) ――日本の少子化対策の歴史は1994年の「エンゼルプラン」から始まり30年ほどになる。時期ごとに政策の優先順位は変わったのか。 「初めは共働き夫婦のための保育施設の拡充が中心的なキーワードだった。その後、男性の育児参加の必要性が台頭した。2010年以降は結婚奨励政策が重要視されている」 ――国ごとに少子化対策には特徴がある。フランスは子どもが多い世帯は所得税を減額する。日本はどうか。 「民間企業と地方自治体が中心となり、若い男女をマッチングさせるアプリがある。市町村ではこのためのイベントも行われる。政府も出会いの場を提供している。また、市町村のイベントを通じて出会った若者が結婚した場合は、地方自治体と共同で総額30万円まで家賃を補助する」 ――過去20~30年間の少子化対策に対する総合評価は。 「子どもたちが保育園に入れない問題を解決したことは成果だといえる。しかし、女性に一方的に育児を任せる文化や、女性が結婚後にキャリアを生かしにくいキャリア断絶問題、結婚を希望する女性の減少は、依然として課題だ」 ――岸田前首相が昨年6月に「2030年までが少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンス」だと強調した理由は。 「2000年代初期までは年間出生数は110万人台だった(2022年からは70万人台に低下した)。この頃生まれた人たちは2030年には出産可能な年代(30代)になる。これらの人たちの意識を変え、人口を増やす方法を見出すことができない場合は、その後にはチャンスがないという意味だ。日本は出生率が1.0を下回ることを絶対に阻止しなければならない。新たな対策を樹立して多くの予算を投じているので、状況は改善されると確信している。対策の効果が出るまでの数年間は出生率がさらに下がる可能性があるが、その後は再び上昇する時期が必ず来ると思われる」 ――少子化克服のためには、政府と企業の協力が必要だ。 「最も重要なのは、夫婦が共働きできる環境をしっかりと整備することだ。育児休業を安心して取得できるようにして、残業できないようにしなければならない。大企業と違い中小企業は、人手不足でそれは容易ではない。そのため、1人が育児休業を取得した場合は、同僚が手伝い、より働いた人にボーナスを支給するようにしなければならない。政府はボーナスの一部を補助している」 ――日本が少子化を国家的危機と認識し、総力戦を展開したのはいつからか。 「安倍晋三元首相のときから、出生率低下と保育の無償化問題が強調された。しかし、国民全体の危機感や共感が足りなかった。岸田政権は『ラストチャンス』という発言が示すように、少子化対策を中心的な政策として前面に打ち出した」 ――岸田前首相の主導で、少子化対策のコントロールタワーの役割を担う子ども家庭庁が発足して1年半が経った。韓国政府も人口戦略企画部の新設を推進している。コントロールタワーができてからの最大の変化はなにか。 「以前は省庁間で互いの顔色を伺うこともあった。今はコントロールタワー主導で政策を作り、各省庁に協力を要請する。全省庁が子ども家庭庁の提示する対策や意見を認め、ついてきてくれる。昨年12月に子ども関連の総合対策(こども大綱)を新たに定めた際には、全省庁と担当者から支援と協力を得た」 ――韓国は10~20年の時差を置いて日本の少子化危機の後を追っている。韓国は社会構造、文化、意識などで日本と類似点が多い。韓国の危機克服に助言をするとすれば何か。 「日本の場合、子ども家庭庁が作られる前から、岸田前首相が少子化の危機を強調し続けてきた。それがその後に巨額の予算投入の土台になった。日本は少子化問題の解決をこれ以上先送りしてはならないという国民的な危機の共感がつくられた。これに首相のリーダーシップが発揮され、推進力ができた。韓国においても、政府のリーダーシップや国民全体の共感がポイントになるのではないか」 東京/クァク・ジョンス|ハンギョレ経済社会研究院先任記者、録音:キム・ヒョジン補助研究員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )