第163回直木賞受賞会見(全文)馳星周さん「G1レースを勝ったように喜んでくれて」
イヌを出すのはずるい、との講評があったが
日本経済新聞:すみません、日経新聞の【マエダ 00:57:12】と申します。よろしくお願いします。受賞おめでとうございます。 馳:ありがとうございます。 日本経済新聞:講評で宮部さんがおっしゃってたんですけど、イヌを出すのはずるいよ、とか、わりと選考委員会の委員の方たちのそういった声があったと思うんですが、してやったりとか、そういったことは思ってますか。 馳:いや、してやったりっていうか、イヌに限らず、動物出す小説はずるいっていうのは分かってます。ただ、僕ももう25年以上イヌと暮らしてるんで、やっぱり書きたいというよりも書かざるを得ないんですね。今回の小説の中にもあるんですけれども、僕は、動物っていうのは神様が人間に使わせてくれた生き物だと思っているので、動物がいなかったら人間はもっと傲慢になるだろうと思っているので、そこを僕なりに書きたかったっていうのがあるんで。実際は本当、動物出すのはずるいと思ってます、分かってます。でも書きたかったんです、許してください。 日本経済新聞:ありがとうございます。 司会:ありがとうございました。じゃあ、水色の。お願いいたします。
実はノワール風味があるとの意見も
読売新聞:おめでとうございます。 馳:ありがとうございます。 読売新聞:読売新聞の【ヒグチ 00:58:41】と申します。イヌの話なんで、ちょっとノワールと違うんじゃないかという意見もある一方で、宮部さんから選評の中で、【西部劇仮説 00:58:49】というのが出て、とか、あるいは、実はイヌと会った人、結構ばたばた死にますので、実はちゃんとノワール風味があるんじゃないかという意見もあるんですけれども、その辺り、どういうふうに見て、ご自身は考えてらっしゃいますでしょうか。 馳:基本的には馳星周という小説家の本質っていうのがあって、それは年取っても、年取っていろんなことを書くようになりましたけども、基本は変わらないと思うんですね。例えば最初の1編や2編っていうのはノワール風味ですし、そのあとは普通の、普通のっていうか、日本の地方都市の人たちの話とかがありますけれども、なんだろう、要するに都会の暗黒街で人がどうこうするっていうことじゃなくても僕の持ち味は出せると思うし、人間だけの話だと本当に悲惨になっていく一方なんですけど、そこにイヌなりなんなりがやっぱり出てくることで救いは出せるというか、人間同士では救いは生まれないけど、そこに動物が関わってくることで救いが生まれるっていうことは、この一連の連作を書いているときにはずっと頭にあったことなので、そういうふうな意図で書いた小説でもありますし、やっぱり人は、人のほかに救いを求めなきゃいけないんじゃないかっていうのは普通にあります。