第163回直木賞受賞会見(全文)馳星周さん「G1レースを勝ったように喜んでくれて」
イヌの話で受賞したことをどう受け止めるのか
朝日新聞:朝日新聞の興野と申します。受賞おめでとうございます。 馳:ありがとうございます。 朝日新聞:馳さんといえば世間の一般の読者からすると、ノワール小説というイメージが長らく強くて、23年前に候補になられた際も、デビュー作の『不夜城』だったと思うんですけれども。今回、ずっと愛されてきたイヌの話で受賞をされたというのは、どのように受け止めていらっしゃいますか。 馳:いや、例えば、僕は30歳ぐらいでデビューしたんですけれども、そのあとも何回か直木賞の候補にしていただきまして、若いときは自分はもうノワールしか書かないって思ってたんですよ。でも、40半ばぐらいから、もう作家生活も15年、20年とかなってきて、そういうこだわりはなくなってきて、もうそのときに書きたいものを書きたいように書くっていう、今、そういう心境なんですね。それで書いたのうちの1作が『少年と犬』ですし、それで今回、直木賞をいただいたってことに関しては、もう本当に純粋にありがとうございますと。 これから、ノワールも書きますけど、ノワールじゃないものも書きます。今そういう心境なので、特にそういうことに関してはどうということはないですね。ノワールであろうがそうでなかろうが、全て馳星周の小説なので、それを評価していただいたと思ってうれしく思っております。 朝日新聞:ありがとうございます。あと、ちょっと別の質問になるんですが、地元の方がとても喜ばれていたということだったんですけれども。 馳:誰がですか。
地元の人とはどういう方々か
朝日新聞:地元の人たちが一緒に待っていてすごく喜ばれていたということなんですが、具体的に、例えば同級生の方ですとか、あるいは町長さんですとか、どういった方々なんでしょうか。 馳:僕も浦河で生まれたんですけれども、40年以上離れていたので、ちょっと3年ほど前に、たまたま縁があって、テレビの仕事なんですけど、浦河に戻ってきて、ああ、俺のふるさとはこんなにいいとこなんだっつって思い直して、去年から夏、2~3カ月、浦河で過ごすようになった。 そのときに、今の浦河の町長さんであったりとか、町役場の方であったりとか、あと、町役場の中には僕の同級生がいたりとか。あと、親とずっと長い付き合いの方がいたりとか。あと、競馬関係なんですけれども、こちらでサラブレッドの生産をやっていらっしゃる牧場の方とかがいらっしゃって、たまたま今年、この浦河に滞在しているときに直木賞の候補になって直木賞の選考会があるというので、じゃあ浦河でみんなで待とうと。 こういう言い方するとあれかもしれないですけど、たぶんもう、一生に一度あるかないかの、浦河のみんなにとっても経験だと思うので、賞をもらえるかもらわないかは別にして、この直木賞というのはこういうもんだよっていうのをみんなと分かち合いたくて浦河で待つことにして、実際にそれで賞をいただいたので良かったし、みんな、もう、僕が競馬のG1レースを勝ったように喜んでくれています。 朝日新聞:ありがとうございます。 司会:ありがとうございます。どうぞ。